はじめに

現在，社会は“第4次産業革命”といわれる時代の大きな転換点に差し掛かっている．人工知能（AI）やIoT（internet of things）などのテクノロジーやVR（仮想現実），AR（拡張現実），次世代通信規格5Gなどが日常となっている未来は，医療現場でも第4次産業革命時代のテクノロジーの活用が当たり前になる．また，2020年（令和2年：R2）は新型コロナウイルス感染症（COVID－19）により，社会も“リモートワーク＆リモートライフ（R2）”を経験する時代となっている．このR2はこれから日本のニューノーマルへの変化の先取りであると考えている．

遠隔医療や医療AIなどが浸透していくことが予想されるこのような状況下で，基盤技術として注目されるのが，第5世代移動体通信システム“5G”である．5Gは高速・大容量，低遅延，多数同時接続といった特徴を持つ．“高速・大容量”では，データ量が大きい4K・8Kといった高画質の映像や，高品質のVRやARといったコンテンツが手軽にやり取りできるようになる．また，“多数同時接続”ではウェアラブルデバイスをはじめとしたIoTデバイスが増えていく環境での処理を可能にする．さらに，データのやり取りのタイムラグが大幅に減少するという“低遅延”により，今までは部分最適をはかる形で進んできた医療現場のデジタル化が，医療現場の全体最適（DX化）に進んでいく．わかりやすい例では，自動運転やドローンが，5Gのリアルタイム接続で遠隔からの機体操作されるように，診療や手術においても遠隔操作が可能になり，医師の場所の概念がなくなる．また病院での患者体験も最適化され，たとえば問診や診察，会計で不要な待ち時間はなくなる．かかりつけ医が「本日はどうされましたか？」などと言わず，本日の来院理由や患者の健康状態を把握している．2030年に向けて，医療はより日常に存在するものになり，手術や処置，管理の必要な点滴などを除くと，患者が病院に行くことは少なくなるのではないだろうか．これらの実現に必要な4Kカメラやセンサー，そしてAIとのタイムラグのない接続には5Gが欠かせない．

Society 5.0時代の基盤となる5Gの医療現場での取り組みは着実に進んでいる．本特集では，5G×医療の政策動向や医療機器としての展開，そして診断から手術に至るまでの取り組みを紹介する．わが国で現時点での“5G×医療”における最高の特集となった．

デジタルハリウッド大学大学院客員教授/アイリス株式会社共同創業・取締役副社長
加藤浩晃