はじめに

医療や看護を取り巻く環境は、厳しさを増すばかりです。その背景には少子高齢多死社会の到来を背景とする人口構造の変化とそれに伴う疾病構造の複雑化・多様化があります。しかし、それ以上に医療界に大きな影響を及ぼすようになった要因は「経済」です。本書を手に取ってくださった看護管理者の皆様方は、1990 年代初頭に我が国で起こった異常なバブル景気が破綻し、景気が急速に悪化した一連の出来事をご記憶でしょうか。また、2008 年のリーマンショック後は相次ぐ企業の倒産や失業率の増加に拍車がかかり、医療経済も骨太改革の名の下に縮小を余儀なくされました。そして、2020 年新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、我が国のみならず世界中が経済と医療提供体制に甚大な被害を受けています。

このような時代の変遷と経済に翻弄されながら、医療機関は生き残りをかけた病院経営健全化の努力がますます重要になってきました。看護管理者もトップマネージャー、あるいはミドルマネージャーとして、病院経営に深く関与せざるを得なくなっています。特に看護部門は、病院内で最大の人員を抱えており、それらの人材を活用して患者ケアのみならず入院料等において最大の収益を上げるという生産性の向上が、病院経営の浮沈にかかっていると言っても過言ではありません。

本書は「重き荷を背負いて遠き道を行くが如し」のご苦労を重ねておられる看護管理者に是非読んでいただきたいと願って世に送り出しました。第１章は看護管理者が知っておくべき経営指標とその意味について、看護管理者の思考に近い形で平易に解説しました。第２章は、病棟・看護部改善のために、データ収集・分析を行う目的、意義、また、病棟にあるデータの種類、収集する手法、収集時の注意点などを具体的に解説しました。第3 章では問題解決に役立つツールとして、パレート図、グラフ類、ロジックツリー、グルーピング法など、「いつか私も使いこなしてみたい」と思っておられたツールの活用法を具体的に紹介しています。これらの知識・技術を身につけることで、業務改善のみならず研究にも応用できます。第４章は改善に取り組んでみたが思うような効果があがらない場合、取り組み自体の是非をどう検証するか、また、どのように軌道修正を図るかなどについて、座談会形式で話し合い、それらに関するエッセンスをまとめてみました。そして、第５章は、解決の方法・道筋がわかるように、私が共同執筆をお願いした看護管理者の方々の成功の秘訣を紹介してもらいました。「病床単価を上げたい」、「時間外勤務を削減したい」、「経費削減を図りたい」、「転倒・転落を減らしたい」など、看護管理者の皆様が常に頭を悩ませている課題について、快刀乱麻を断つが如くの助言やヒントを得られることと確信しています。本書が看護管理者の重き荷を少しでも軽くできれば望外の喜びです。

令和3 年10 月

鹿児島大学病院　医療情報部　教授・部長
宇都由美子