序文

忙しい看護の現場にあってどうして研究が必要なのでしょうか．この「問い」は，保健医療・福祉の現場が大きく変化するなかで看護がどうあるべきか，看護の専門職として何をすべきかの「問い」でもあろうかと思います．

本書は，日本メディカルセンター刊行の『臨牀透析』2010 年10 月号から2013 年4 月号までの連載「現場からの発信！事例研究に取り組もう」に加筆してまとめたものです．この連載を始めたきっかけは，日本腎不全看護学会が設けた，5 学会認定透析療法指導看護師（2013 年からは6 学会）の存在でした．日本腎不全看護学会は，資格制度を設け看護師の質の向上に寄与してきましたが，看護実践の研究的取り組みについては，看護者たちの苦手意識から依然大きな課題となっていました．そこで，腎不全医療に携わる現場の看護者のまずは研究的な取り組みの第一歩として，「事例研究」について学習の機会をもち，現場の課題を一緒に乗り越えたいと考えたのです．

また，編者らは2010 年よりNPO 法人日本看護キャリア開発センターを立ち上げ，腎不全医療の分野だけでなく，さまざまな看護の現場で働く看護者の研究支援を行っております．半年から2 年のスパンで個人や小グループとともに看護の現象を探求するなかで，「事例研究」の面白さを強く実感していたことも連載の後押しをしてくれました．

看護現場では，看護者たちがさまざまな疑問に立ち向かいながら看護実践に取り組んでいます．このような看護者の体験や経験こそが，臨床における看護の知であり，埋もれさせてはいけない実践知です．実践知は，看護実践事例の積み重ねのなかで表現され共有されなければならないと考えます．この実践知を体系化したものが「事例研究」です．現場の看護者が，個々の事例を貴重な体験としてていねいに検討し，「事例研究」として表現する力を身につけることは，看護者自身の成長へとつながります．また，「事例研究」への取り組みは，現場から発信できる看護界への大きな貢献でもあります．

本書では，巻頭で事例研究に取り組むための14 のステップを示しました．第1 章から第12 章は，この14 のステップを一歩一歩たどりながら，現場で働く看護者が楽しく学べるように組み立て，解説をしています．各章では，できるだけ具体的事例を示し，読者自身が書き込むワークシートをいくつか挿入しています．

忙しい看護現場にいる皆様が，興味をもって事例研究に取り組むことができるように，本書が具体的に支援できる一冊となって少しでも役立てばたいへん嬉しいと思います．

最後に，本書の出版に当たり，ご支援いただきました『臨牀透析』編集委員会の皆様はじめ，貴重なご助言をいただきました小松康宏先生，中山昌明先生に深く感謝申し上げます．また，日本メディカルセンターの皆様，とくに辛抱強くお力添えくださいました澤村玲子氏に熱くお礼を申し上げます．

平成25年5月

NPO 法人日本看護キャリア開発センター
下山　節子
江藤　節代