特集 スポーツ現場における応急処置 －AED から骨折固定，止血法まで－

スポーツ現場では日々，さまざまな外傷や障害が発生する．しかし，これらの外傷や障害に対応できる医療従事者が，現場に常にいる訳ではない．また，いたとしても診断機器や医療材料などが整っていないことが多い．したがって，スポーツ現場で外傷や障害が発生した際には，その場では十分な医療行為を行うことができず，何らかの応急処置が必要になる．しかし，十分な知識がないと，緊急を要する対応が間に合わなかったり，かえって外傷や障害を悪化させたりすることもある．本特集ではスポーツ現場でしばしば発生する外傷や障害に対して，どのように判断し，どのように対応すべきかについて，それぞれの専門家に解説をお願いした．

まず，スポーツ活動中に生じる最も重篤な障害として「心停止」を取り上げる．最近は多くのスポーツ施設でAED が設置されているが，練習場などでは設置されていない場合もある．心停止は時間との戦いであり，スポーツ現場でこれが生じたときに，まず何をなすべきかについて解説する．次いで，これも重篤な障害である「脳振盪」の対応について，さらに「鼻出血」について解説する．鼻出血は止血が必要になるばかりでなく，中には重篤な疾患の一症状であることもあり，どのように対応すべきかについて解説する．さらに「筋痙攣」，「熱中症」，「運動誘発性喘息」，「過呼吸」などのさまざまな内科的疾患が，スポーツ現場で生じたときに，どのように判断して，どのように応急処置をすべきかについて解説する．また，特殊なケースとして「刺傷・咬傷」を取り上げる．スポーツ施設内で行われる競技ではまれであるが，屋外，特に自然環境下で行われるスポーツではさまざまな刺傷・咬傷が発生する可能性があり，対応をマスターしておく必要がある．

スポーツ活動中に発生する外傷では，まず「出血」に対する対応を知っておく必要がある．出血は競技種目によっては競技の継続が許可されない場合もあり，早急な止血が必要になる．そして開放骨折を含めた「骨折」について解説する．骨折はスポーツ現場で正確に診断することは難しい場合もあるが，これを放置してスポーツを続けることによって転位を起こすなど，悪化させる懸念もあるので，疑わしいときは慎重に対応する必要がある．また開放骨折は放置すると感染などの危険も高く，迅速な対応が求められる．最後に「肩関節脱臼」，「肘関節の外傷」，「脊椎の外傷」，「膝関節血腫」，「足関節の外傷」など，身体各部位の外傷に対する応急処置を解説する．

医療従事者でなくても，これらのスポーツ現場で生じえる外傷や障害を理解し，応急処置をマスターしておくことは重要である．この特集が今後のスポーツ外傷や障害を少しでも減少，もしくは軽症化させる一助となれば幸いである．

特集編集：松本秀男（日本スポーツ医学財団理事長）