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- 生殖医療フロントラインMOOK(2)受精とその障害
商品情報
内容
受胎の始まりである受精を,現場で生かせる知識として再整理した.進歩が著しい生殖医療の世界でも,受精機構は今だに謎が多い.それゆえ,基礎と臨床の両方の面から最新の知見に更新していく必要があると言える.各テーマの第一人者の解説は,平易でありながら深い.一読すれば,受精の重要性を改めて認識すると共に,チーム全体の知識の共有と底上げにも役立つだろう.
あわせて読む → 生殖医療フロントラインMOOK(1)EBMから考える生殖医療
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序文
シリーズの序
わが国の生殖医療は,1983年に国内初の体外受精が成功して以来,その医療レベルは着実に進化し,現時点では国際的にも最高水準にあると言えます.この間に生殖医療はチーム医療として確立され,直接診療を担当する医師(産婦人科・泌尿器科)や看護師以外にも,専門的なスキルをもつカウンセラー(遺伝・心理),あるいは精子,卵子や受精卵を取り扱う胚培養士などが,挙児を切望するクライアントに対してチーム一丸となり,上述のような最高水準の生殖医療を提供しています.
またいよいよ2022年4月から生殖補助医療に対しても待望の保険適用が開始されましたことから,不妊症に悩むカップルにとりましても体外受精等が以前にも増して身近な存在となりました.それらの治療効率の高さから,引き続き現在の本邦における切実な少子化問題の解決の一助として,生殖医療の全体にわたる発展が期待されています.
今回中外医学社より企画致しましたMOOKシリーズでは,各号のテーマにふさわしい,永年の研究歴を有する著名な先生方に,現時点における生殖医療の知見に対する理解を深めることを目標に,編集をご担当いただきました.今回のMOOK(1)「EBMから考える生殖医療」に続く今後の発刊予定としまして,MOOK(2)では国際医療福祉大学教授の柳田薫先生に「受精とその障害」というテーマで,またMOOK(3)では聖マリアンナ医科大学の鈴木直先生に「がん・生殖医療」というテーマで各々ご企画をいただき,いずれもまもなくお手元にお届けできる状況にございます.是非ご期待をいただけましたらと存じます.
本シリーズの刊行にあたりましては,企画編集の先生方をはじめ,ご多忙な中ご執筆頂いた先生方にも心より感謝を申し上げます.また本シリーズの企画以来,中外医学社の皆様方からは献身的なご協力,ご指導をいただきましたことに,深く感謝を申し上げます.
令和4年9月
兵庫医科大学医学部産科婦人科学講座主任教授
兵庫医科大学病院生殖医療センター長
柴原浩章
序
体外受精‒胚移植は今日の生殖医療になくてはならない治療法となっています.1978年7月25日,イギリスのOldham病院にてLouise Joy Brownが誕生しました.母親は2回の子宮外妊娠で両側の卵管切除を受けており,同病院の婦人科医のPatrick Christopher Steptoe医師が体外受精‒胚移植を提案し,生物学者のRobert Geoffrey Edwardsとともに体外受精を行い,世界で最初の体外受精児が誕生したのです.体外受精の基礎研究はShenk(1878)がモルモットを用いて,卵胞液と子宮内膜上皮とともに卵胞卵子を精巣上体精子で媒精したことに始まりますが,その後の約70年間は受精の研究が進まず停滞していました.これは受精に必要な受精能獲得を認識できなかったからに他なりません.1951年にAustinとChangがそれぞれの研究によって,受精に必要な精子側の条件である受精能獲得を発見し同じ年に報告しました.この発見によって,その後はウサギをはじめとして体外受精で受精卵が次々と得られるようになり,研究が急速に進み,EdwardsとSteptoeのヒトIVFでの成功に繋がったのです.
現在実施されている体外受精の受精率はおおよそ70%であり,そのことを多くの医療者は当然のように受け止めています.生理的な体内での卵管受精では卵子の周囲に存在する精子は10〜100個程度ですが,体外受精では100,000個以上の精子で媒精しなければなりません.それなのになぜ受精率が100%にならないのでしょうか.受精のプロセスが本当に解明されているのであれば,体外受精の受精率も格段に向上するはずです.つまり,受精機構は今なおその多くがブラックボックスの中にあるということを認識しなければなりません.さらに,最近の研究では受精の仕方がその後の胚の発生に影響することも指摘されており,どのように受精するか,受精させるかをコントロールしなければならない時代に入ってきていると思われます.
そのような受精を取り巻く環境の中,本書は生殖医療の中での受精を意識して,受精を理解するために最新の知見をふまえて,基礎と臨床の立場からそれぞれのテーマの第一人者に平易に解説していただきました.受精‒胚発生‒着床という流れの中では,少し影が薄かった受精ですが,始まりだからこそ重要であるという認識を持つことは,今後の生殖医療に大いに貢献すると思われます.生殖医療に携わるARTクリニックや不妊治療センターなどの医師,看護師,胚培養士,生殖カウンセラーなどの医療従事者の皆様には,本書で理解を深めてチーム全体のレベルアップを図っていただければ幸いです.
最後に,このMookの企画編集の機会を頂いた編集主幹の柴原浩章先生に,そして中外医学社の関係者の方々にお礼を申し上げます.そして,この素晴らしい内容の本書の執筆者の皆様に深甚の謝意を表します.
令和4年10月
国際医療福祉大学大学院教授/リプロダクションセンター長
柳田 薫
目次
1 受精のメカニズム〈野田大地 伊川正人〉
1.概要
2.精漿成分と精子受精能力
3.精子が卵と出会うまで
4.受精
5.卵活性化
2 卵丘細胞・卵複合体の成熟と受精〈島田昌之〉
1.卵丘細胞の起源
2.卵胞発達過程における卵丘細胞の機能
3.排卵過程における卵丘細胞の機能
4.排卵過程における卵丘細胞を中心としたホルモンネットワーク
5.排卵される卵・卵丘細胞の変化と受精との関係
6.未成熟卵の体外成熟培養
3 精子の受精能〈藤ノ木政勝〉
1.受精能について
2.先体反応と超活性化運動
3.受精能の調節
4.受精能の利用応用について
4 精子機能検査〈笠井 剛〉
1.低浸透圧膨化試験
2.精子生存試験
3.精子自動分析装置
4.ヘミゾナアッセイ
5.先体反応
6.精子形態
7.ヒアルロン酸の付着性
8.精子DNA断片化検査
5 精子DNAの損傷と受精〈小林 護 吉田 淳〉
1.精子のDNAの凝縮と受精後の変化
2.精子DNAの断片化
3.精子DNA断片化測定方法
4.フローサイトメーターを用いた精子クロマチン構造解析
5.FCM—SCSAの実際
6.SCSAの注意点
7.精子DNA損傷が受精や胚発生に与える影響―動物実験による検討―
8.ヒト精子におけるDFIの意義
6 良好精子回収方法〈葉山智工 上野寛枝〉
1.良好精子回収とは
2.精液採取(採精)
3.精子調整法
4.受精方法を見越した精子調整法の工夫・多職種連携
5.これからの精子調整法
7 精子中心体の役割と受精での機能異常〈寺田幸弘〉
1.受精の本質とそのゴール
2.精子中心体の形成と機能発現
3.不妊症例における精子中心体の機能異常
8 Aging卵と受精〈高橋俊文 齊藤英和〉
1.卵の加齢の定義
2.排卵前の卵の加齢と受精
3.排卵後の卵の加齢と受精
4.まとめ
9 受精と免疫〈長谷川昭子〉
1.受精
2.免疫
3.精巣・精子抗原
4.精子抗原の避妊ワクチンへの応用
5.卵子・卵巣抗原
6.抗透明帯抗体は不妊の原因か?
7.透明帯抗体の避妊ワクチンへの応用
8.胚が保有する抗原
10 IVFでの媒精法〈猪鼻達仁〉
1.精液(精子)の輸送
2.採卵
3.検卵
4.前培養
5.媒精作業
11 IVFでの受精と受精障害の対策〈菅沼亮太〉
1.IVFでの受精
2.受精確認
3.受精障害の対策
12 c‒ICSIの方法〈佐藤 学〉
1.c—ICSI実施のポイント
2.まとめ
13 Piezo‒ICSIの方法〈木村康之〉
1.Piezo—ICSIに必要な器材
2.器材のセッティング
3.Piezo—ICSIの手技
14 ICSIでの受精と受精障害への対策〈柳田 薫 柿沼 薫〉
1.ICSIによる受精
2.ICSIによる受精の問題点
3.ICSI後の受精障害
4.ICSIの受精障害への対策
5.人為的卵活性化処理法
6.特殊な受精障害例
15 ICSIの適応〈江夏徳寿 塩谷雅英〉
1.男性因子によるICSI適応
2.男性因子以外によるICSIの適応
3.まとめ
16 不動精子症例でのICSI〈酒井智康〉
1.概要
2.不動精子症例
3.不動精子症例のICSI
17 受精の判定とその異常〈神田晶子 宇津宮隆史〉
1.0 PN(受精未確認胚)
2.1 PN(単核)
3.3 PN(多PN)
18 シネマトグラフィからとらえた受精〈湯本啓太郎 見尾保幸〉
1.対象と方法
2.初期胚発生過程の連続観察結果
3.初期胚発生の時間経過
4.細胞内小器官の動態
5.新たな多精子受精防御機構の可能性
6.前核形成過程の異常現象
7.前核期における新たな形態評価基準
8.考察
19 ライブセルイメージングからわかる受精後の胚発生〈増子大輔 山縣一夫〉
1.生殖補助医療で得られた胚の質の評価
2.ライブセルイメージングの概要
3.ライブセルイメージングでわかった染色体分配異常の発生への影響
4.超解像ライブセルイメージングによる染色体分配の観察
5.ライブセルイメージングによる胚評価のこれから
20 先体酵素とICSI〈堀内俊孝 越知正憲〉
1.精子の先体酵素
2.先体のある精子のICSIにおける有害性
3.先体のある精子をICSIすることによる問題点
4.まとめ
21 卵活性化因子PLCζ研究の現況と展望〈須山あゆみ 影山敦子 伊藤潤哉〉
1.哺乳類の受精時における卵活性化
2.卵活性化機構に関する3つのセオリー
3.SFとしてのPLCζの発見
4.PLCζの局在と機能
5.卵の成熟過程におけるIP3Rの制御
6.PLCζに関する研究の現状と展望
22 実験動物における精子細胞および精母細胞を用いた顕微授精〈小倉淳郎 越後貫成美〉
1.各動物種における顕微授精技術の現状
2.精子細胞・精母細胞を用いた顕微授精の基本情報
3.伸長精子細胞を用いた顕微授精(ELSI)
4.円形精子細胞を用いた顕微授精(ROSI)
5.二次精母細胞を用いた顕微授精
6.一次精母細胞を用いた顕微授精
7.まとめ
23 精子細胞での受精〈田中 温 伊藤昌彦〉
1.円形精子細胞の問題点
2.低い出産率,高い流産率の原因とその対策
3.今後の課題
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書籍情報
- ISBN:9784498160422
- ページ数:154頁
- 書籍発行日:2022年11月
- 電子版発売日:2022年11月16日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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