睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本

  • ページ数 : 160頁
  • 書籍発行日 : 2022年10月
  • 電子版発売日 : 2022年12月2日
3,850
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商品情報

内容

睡眠薬で不眠症が治らないのならどうすればいいのか?

 多くの医師は不眠症の治療において睡眠薬しか選択肢を知らずに見よう見まねで処方をしている。スタンフォード大学睡眠医学センターで不眠症を治療してきた睡眠専門医の河合真医師が睡眠医学の知識と不眠症の特性をひも解き、「不眠症の治癒(=睡眠薬の中止)」に至るまでの考え方を解説する。

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序文

著者・まえがき

・「睡眠薬を処方するなら睡眠のことを知らなければならない」
というのは,

・「降圧薬を処方するなら血圧のことを知らなければならない」
とか,

・「抗菌薬を処方するなら細菌のことを知らなければならない」
ということと同じはずです.

しかしながら,自分を含めて研修医になって初めて睡眠薬を処方することになったときに,きちんと「睡眠とは,睡眠薬とは,こう考えて処方するのだ」と教えてもらうことなどまずありません.そんなときに「とりあえずこの本を読んでおけばなんとかなるよ」という本が書けないものかと考え続けてきました.しかし考えれば考えるほど睡眠薬という薬剤がいかに特異な存在であるかを実感し,それを言語化するのはかなり難しい作業でした.

まず,睡眠薬に関してはさまざまな意見があります.一般の人達から「最近の睡眠薬は安全だからそんなに怖がらなくていいよ」「いやいや,依存をつくるから安易に服用すべきではないですよ」などという意見を聞いたり,SNS で見かけたりします.さらに,医療従事者との議論でも「不眠時頓服指示で処方するだけだし,まぁそんなに目くじらを立てなくてもなんとかなるよ」「いやいや,外来で睡眠薬の処方を中止できなくて困るから慎重にならないといけない」という話もよく聞きます.

これらの意見を統合すると「睡眠薬は,簡単で,難しく,安全かつ危ない薬剤」ということになります.私は,意見を集約するとこんな支離滅裂なことになってしまう薬剤をほかに知りません.

さらに,睡眠改善薬というカテゴリーの薬剤(これも眠くなりますので広義の睡眠薬です)は一般の人達が薬局で買えます.抗ヒスタミン薬が主成分ですが,その成分は市販の風邪薬にも含まれるので睡眠薬として分類されていなくても「眠くなる」薬は簡単に手に入るどころか,それを服用することなく1 年を過ごすことが難しいとさえいえます.ですから,一般の人達も「眠くなる薬」の経験があり,「眠れないときは,○○を試して,ダメだったら○○」などと一家言を持つようになります.そして,そのうち「○○がよく効いたよ」などと知人に勧めだしたりします.

では,一般の人達の意見と医療従事者の意見では何が違うのでしょうか? 私は薬剤に関する知識では,本来医療従事者と一般の人達の間にはレベルの差があって,それによって「やっぱり,プロの意見は違う」とならねばならないと思っています.さもないと「何のための免許なのか?」ということになります.

ところが,睡眠薬に関する医療従事者の意見を聞いていると,残念ながら一般の人達と大差ありません.知識レベルはそのままに「処方する側」にまわっただけに見えて仕方ないのです.例えば,前出の抗ヒスタミン薬ですが「抗ヒスタミン薬を服用すると眠くなる」という事実以上のことを説明できる医療従事者がどれほどいるでしょうか? そもそも「ヒスタミンが睡眠,覚醒にどのようにかかわっているか」を説明できないのに,それを阻害する薬剤を語ることなどできるはずもありません.

私は睡眠医学を専門にしています.自分の専門分野を愛していますし,一生の仕事にできて,大変幸せです.そんな私を変わった奴だと思う人も多いでしょう.否定はしません.私は皆さんに「こんな変人と同じキャリアを歩め!」とはいいません.

せめて,他の分野の薬剤と同じ程度の基礎知識を持って睡眠薬を処方してほしいのです.

しかしながら,睡眠薬の処方に必要な知識は量が多いだけでなく,さまざまな専門分野を横断しているのでなかなか1 つの分野の専門家がカバーするのは難しいです.「睡眠薬を処方する」という行為には,作用や副作用,薬効薬理だけでなく,「睡眠薬を中止する」もしくは「長期にうまくマネージメントする」方法まで知っている必要があります.それは,どのように折り合いをつけて慢性不眠症の患者と付き合っていくかというサイエンスよりも「臨床のアート」に分類される技術も含まれます.そのような多岐の要素を含む睡眠薬を処方するために必要な知識をなんとか1 冊の本で網羅したいと考えつつ執筆しました.この本を読めば少なくとも睡眠薬を処方してもよいだけの知識は手に入るはずです.

さて,今回も編集を担当いただいた丸善出版株式会社企画・編集部の程田靖弘様にはまたもや大変なご苦労をおかけしました.『極論で語る睡眠医学』を2016年に刊行してから「睡眠の深掘り本を書きましょう」と言われ続けてはや6 年,ようやく形になりました.

さらに,今回は関西電力病院睡眠関連疾患センター長の立花直子先生に校閲いただきました.日本の睡眠薬事情の詳細を知っておられる先生のご助言により,日本での使用に耐える本になったと思い感謝いたします.

また,本文には日本臨床睡眠医学会(ISMSJ:http://www.ismsj.org)とNPO法人Osaka Sleep Health Network(OSHNet:https://oshnet-jp.org)から貴重な資料を使わせていただきました.感謝申し上げます.

多くの人たちに支えられて出版までこぎつけられたことを嬉しく思います.ぜひ多くの人達に読んでもらいたいです.


2022年8月吉日真夏の米国カリフォルニア州の陽光のもとで

スタンフォード大学睡眠医学センター
著者河合真

目次

1章 睡眠薬に関する問題を整理しよう

1.セット処方だからといって、睡眠に関する無知が許されるのか?

2.不眠症の評価方法を知らないで睡眠薬を処方するなど正気の沙汰ではない

3.睡眠薬処方の因果応報=「睡眠薬処方開始と処方中止が別の医師」という問題

4.「不眠症=睡眠薬で治療」では行き詰まるに決まっている

2章 睡眠ってなんだ?:睡眠と覚醒の本体

1.「睡眠」と「覚醒」の両方の理解が必須

2.正常の覚醒・正常の睡眠の生理とは? 

3.シーソーのもう一方の側、睡眠を考える

4.REM睡眠の抑制機構を知っておく

5.抗うつ薬と睡眠とREM睡眠の微妙な関係

3章 睡眠ってなんだ?:睡眠と覚醒を動かす原動力

1.「覚醒」と「睡眠」を動かすもの

2.シーソーを動かす原動力 その1:概日リズム

3.シーソーを動かす原動力 その2:恒常性の睡眠ドライブ

4.スイッチメカニズムはどれほど強いものなのか?

4章 不眠症の何にアプローチするのか?

1.どの不眠症を治療するのか?

2.不眠症は、診断ではなく評価に時間を割く

3.睡眠薬では不眠症の要因に介入できない。ゆえに…

5章 睡眠薬の適応症:慢性不眠症における睡眠薬の役割を考える

1.「睡眠薬で不眠症のどこを治療しているのか」わかっていますか?

2.なぜ睡眠薬は効いて、そして効かないのか?

3.「とすね療法」とは? その功罪も知る

4.この本が勧める睡眠薬の分類法 

6章 睡眠薬の適応症:慢性不眠症と主な睡眠薬についての詳説

1.ベンゾジアゼピン系睡眠薬が処方されている患者の断薬は要注意

2.オレキシン・ハイポクレチン受容体拮抗薬の特徴

3.抗ヒスタミン薬は処方箋のいらない睡眠薬なので知らないというわけにはいかない

4.SSRIはシーソーの中心と周辺に効くことが期待できる

5.メラトニン受容体作動薬はシーソーの外で働く 

7章 睡眠薬の副作用は睡眠薬選択の大切な基準

1.睡眠薬選択で求められる思考ステップ

2.睡眠薬の副作用の考え方

3.持ち越し効果を考えると睡眠薬の選択はほぼこうなる

4.薬剤特異性副作用の考え方:転倒、健忘、パラソムニアなども要注意 

8章 入院中での睡眠薬処方をどうすべきか?

1.入院して不眠になるのは当然

2.「入院患者」というカテゴリーに全ての患者をまとめるのは無理

3.不眠時頓服指示を出す前に一瞬で思考すべきこと

4.頓服指示を今出す必要があるのか?

5.睡眠薬処方の際は「不利益の最小化」を考える 

9章 外来での睡眠薬処方をどうすべきか?

1.サクセスルートを辿る睡眠薬とは?

2.難渋ルートも考慮しながら中止を検討する

3.慢性不眠症なら3つの希望的な考えを捨てるべし

4.慢性不眠症で睡眠薬が中止できない状況の考え方

10章 睡眠薬の中止の方法:中止のための大切な下準備

1.不眠症を睡眠薬なしでどうやって治療するのか?

2.とにかく下準備が大事

3.中止したいのは誰? それはどのような誘因によるのか?

4.不眠症は目に見えない。それを見える化する

5.時間のかけ方、時間の認識の仕方がカギ

6.最後にゴールを設定する

11章 睡眠薬の中止の方法:中止に取りかかるとき

1.もし中止に失敗したら?=中止して不眠症が再発するのは当たり前

2.睡眠薬を中止して眠れなくなったら何をすればいいのか?(患者に丸腰では戦わせない)

3.具体的に何をやるかは患者次第

4.睡眠薬をどうやって中止するのか? 「漸減?」「頓服?」「断薬?」 

この本の終わりに

編集協力・あとがき


Kファイル一覧

1.睡眠時間は人それぞれではなく、不眠症は人それぞれ

2.眠りの起源

3.臨床家の言葉

4.患者と長期間にわたって付き合えない状況なら、どうする?

5.とすね療法の功罪

6.非べンゾジアゼピン系薬を知らずに今どきの医師は診療できない

7.睡眠サプリメントが効く? 効かない?

8.睡眠薬の致死量と大量服薬について

9.新薬との出会い

10.J-POPと睡眠薬

11.睡眠薬の説明会の矛盾

12.不眠症、睡眠薬について勉強する意義

13.米国における不眠症の認知行動療法の実際

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書籍情報

  • ISBN:9784621307496
  • ページ数:160頁
  • 書籍発行日:2022年10月
  • 電子版発売日:2022年12月2日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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