羅針盤
ものとの出会いは人との出会い

私は開業当初，以前勤務していた病院から引き継いだ東洋紡の肌着を患者さんに紹介していた．肌あたりが柔らかく評判が良かったが，途中で販売しなくなった．そこで，PR 会社の知人から紹介されたワコールの敏感肌用肌着を紹介することにしたが，店頭販売が通信販売に代わり，それもいつしか打ち切りとなった．

そんな時，日経ヘルスの編集者から取材がてら，タレントの宇江佐りえさんを紹介して頂いた．彼女自身が肌トラブルに悩まれ，肌の弱い人でも安心して美しく着ることができる肌着「リエッセンス」を立ち上げていた．

オーガニック綿花を使用し，紡績工程も化学薬品を使用せず，縫製は心地よさを追求したものであったため患者さんに紹介していたが，製造に費用がかさみ，残念ながら終了となってしまった．

こだわればこだわるほど，高価なものになってしまう，でもそれでは肌の弱い皆様にお届けできない，というジレンマが襲った．肌着難民という言葉がよぎり，途方に暮れた．そのような時，学会で知った日本アトピー協会から，陸前高田市で縫製している島崎株式会社「Fleep」を教えてもらった．さっそく都内にある会社を訪問した．

肌にあたる部分が綿で，肌にあたらない外側にナイロン・ポリウレタンの混紡糸を使用していた．それまで100％綿の肌着しか考えていなかったが，混紡糸のメリットを教えてもらい，衝撃を受けた．さらに糸の撚りをほぐして繊維の間に空気を含むため，軽くてとても柔らかく仕上がっていた．価格もリーズナブルであった．

レースが肌にあたっている部分があったが，すぐに改良してくれた．自社工場を持っているならでは素早さだった．知り合って数年後に3.11 の東日本大震災に被災されたが工場は無事で，むしろ周辺住民に場を提供して被災者の手助けを行っていた．「人の役に立ちたい」という姿勢が製品に現れると思い，感慨深かった．

島崎の製品が通販生活に掲載された際，その関連からセラフィック株式会社を紹介して頂いた．この会社とコラボしてできたのがファブリックケアマスクである．デザイナー担当はおしゃれな男性で，自分で洋服をすべて縫ってしまうほどのこだわりの方．そのおかげで，おしゃれで機能的なマスクが完成した．

また，徹底して地球環境にやさしい洗剤を追及しているシャボン玉石けんも，北九州に工場を持つ素晴らしい会社である．見学コースがあり，石けんの講義を受けることができ，もちろん私も参加した．とくに製造過程で職人さんが石けんを舐めながら確認する場面は感動した．私も舐めさせていただいたが，舌が少しピリピリする感じで，そのピリピリ感ででき具合を調整しているとのこと．

さまざまな素晴らしいものとの出会いは，人との出会いでもある．患者さんのために何とかしたい，そして，絶対にあきらめたくない，という純粋な気持ちが，素晴らしい人たちとの出会いにつながっている気がしてならない．人との出会いを大切にして，一つ一つものを丁寧に吟味して，今後も患者さんのお役に立ちたいと思う．

野村　有子
野村皮膚科医院 院長