刊行によせて
今日のヘルスケア領域において,看護が有効に機能した理想的な医療を展開するためには,看護者に求められる役割も大きく変化しています。
日進月歩の科学知識,医療技術など新しい情報を常に把握するよう努めるのはもちろんですが,それに加え求められているのは専門職としての判断力です。
言うまでもなく,患者をアセスメントするということは,すべての看護者にとって大切な責務のひとつです。いかなる状況においても,患者の問題を明らかにし,分析(診断)を行い,対処方法を決め,個別的な看護ケアを計画・実施・評価するという流れのなかで,まず基本となるのは患者のアセスメントです。
この患者のデータ収集で最も重要なのは,フィジカル・アセスメントを行い,身体的・生理学的な問題を明らかにすることです。視診,触診,打診,聴診など,的確な技術と鋭い観察によって,看護ケアのための総合的データを得ることができるのです。
かつては患者の血圧測定も,医師のみによって行われていました。時を経て,現在では血圧測定はもちろん,各種のモニタを監視し,耳鏡や検眼鏡のような複雑で精巧な医療機具を駆使するまで看護の実践範囲は拡大しました。また,これまでは血圧測定や心尖脈測定のためだけに用いていた聴診器を使って,正常な呼吸音と肺雑音,正常な心音と心雑音を聴き分けるのも看護者にとって一般的な技術になってきました。臨床の場ではもちろん,在宅看護においても,こうしたアセスメント能力が必要とされます。
このように,時代が要請する専門職としての役割を遂行するために,看護者は十分な準備をしなければなりません。本書に書かれているフィジカル・アセスメント技術を学び,これを実践し,マスターすることで,看護専門職への要請に自信をもって応えられるようになるはずです。
イリノイ大学看護学部名誉教授
小野田千枝子
改訂第3版のポイント
1998年に本書の第1版が発行されてから10年が経過しました。その間にフィジカル・アセスメントに関する教育や看護実践において,大きな変化が起きています。教育場面では看護基礎教育にフィジカル・アセスメントが取り入れられ,教育内容精選に関しての検討がすすめられています。
また,訪問看護の領域では実践場面に積極的にフィジカル・アセスメントを導入する努力が見られます。
2007年には看護基礎教育のカキュラム改訂が行われ,基礎看護学の学習に「フィジカル・アセスメントを強化する内容とする」と明記されました。
このような看護界の変化や読者の声を取り入れ,次の点に留意し改訂を進めました。
①本書で取り上げているフィジカル・アセスメント技術の対象年齢は,「10歳以上」ですが,高齢者に関するアセスメントについて多くの質問が寄せられたため,高齢者に関するアセスメントについて大幅に加筆しました。
②第Ⅲ章「フィジカル・アセスメントの実際」では,ページのスタイルを変更し,「チェックポイントと判断のめやす」の項目を新たに立て,アセスメントの結果をどのように判断するかという視点を強化しました。
③学生や現任者がフィジカル・アセスメント技術を身につけやすくするためのサポートとして,第Ⅳ章「フィジカル・アセスメントのスキルアップ情報」を新設しました。内容は,フィジカル・アセスメントを学ぶために必要な,ベーシックな解剖学的知識を自分の身体で再確認する楽しいドリル『事前学習課題』とスキルアップを助ける『技術習得のための教材例』です。
看護者ひとり一人が看護の専門性を確立する技術の一つとしてフィジカル・アセスメントの技術を学び看護実践にいかしていけるように執筆者一同,願っています。
芳賀佐和子