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- 時系列で紐解く 有益な輸液の話
商品情報
内容
輸液療法について医療現場で体系的に学ぶ機会はあまりありません。また、人によって見解が異なったり、グレーな部分もあり、研修医はもちろん、指導医がいない中小規模の病院の集中治療医は、輸液で悩む場面に多く遭遇します。そのため輸液に対して、苦手意識を持つ医師や研修医も多い状況です。
集中治療科で働く著者は、輸液に関する書籍を出版し、セミナーを開いていることもあり、輸液に関する様々な質問を受けてきました。
本書は、ショックとの出会い編、ショックの初期蘇生編、初期蘇生後の輸液マネージメント編、回復期の輸液マネージメント編の4章構成となっており、著者のもとによく来る質問などをQ形式で紹介し、症例を交えながら、輸液療法に関する見解とその対応をまとめています。
著者の解説は輸液療法の曖昧な部分も明確にしており、簡単に参考できる内容となっています。輸液療法の実践的な書籍として、多くの医師・研修医に役立つこと間違いなしです。
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序文
はじめに
Yes.
1966年、ロンドンのインディカ・ギャラリーで、「天井の絵」という作品が展示されました。オノ・ヨーコさんの作品で、ジョン・レノンとの出会いのきっかけとなった作品と言われます。ギャラリーの部屋の真ん中に無造作に置かれた脚立。その天井から吊るされた虫眼鏡。脚立に登って虫眼鏡で天井を見ると、そこには小さく“YES” の文字。僕はアートに詳しくありませんが、“YES” には起こした(この場合、実際に脚立に登って虫眼鏡で天井を見るという)アクションを肯定的に捉えるメッセージが込められているのではないかと思います。
日々の診療の中で、トレーニングに来てくれている若手医師からいろいろと質問を受けることがあります。また2019年に、中外医学社より『明日のアクションが変わる ICU輸液力の法則』という本を出版させていただきました。その後、いくつか講演の機会をいただき、輸液についていろいろと質問を受けることが増えました。答えられる質問もありますが、中には「分からない」と答える質問もありました。
「輸液」から循環系を連想します。集中治療の現場では、病態のアセスメントをBy System =臓器別に分解して理解しようとします。しかし、分解して理解したものを統合しても、それが全体と一致しないことがあります。なぜなら循環と呼吸は複雑に絡み合っているし、その他の臓器も互いに影響を与え合っているからです。完全には理解できないけれども、僕たちは持てる知識や経験から仮説を立て、決断し、アクションを起こさねばなりません。分からないものを分からないまま進んでいく、その姿勢を肯定すること。寺田寅彦の『科学者とあたま』に以下のような言葉があります。
頭の悪い人は、頭のいい人が考えて、はじめからだめにきまっているような試みを、一生懸命につづけている。やっと、それがだめとわかるころには、しかし大抵何かしらだめでない他のものの糸口を取り上げている。そうしてそれは、そのはじめからだめな試みをあえてしなかった人には決して手に触れる機会のないような糸口である場合も少なくない。
本書は、急性期の輸液に必要な生理学的知識やエビデンスを、輸液のフェーズに沿って時系列で学べるよう章立てをしています。生理学的知識やエビデンスの部分と、実臨床でどのように実践しているかという私見の部分を区別して解説しています。
・アート(ビジョン)
・クラフト(経験)
・サイエンス(分析)
ビジネスではこの3つが揃った時にマネジメントが成功すると言われるそうです。生理学やエビデンスといったサイエンスに軸足を置いた書籍は多いですが、クラフトやアートを意識した書籍は少ないのではないかと思います。今回あえてその領域に踏み込んでみたつもりです。本書が皆さんの新しい気づきと思索のきっかけになることを願っています。
また、先ほど紹介した『科学者とあたま』の中で以下のような言葉があります。
いわゆる頭のいい人は、言わば足の早い旅人のようなものである。頭のいい人は目標地に最速で行き着くけれど、途中の道端や脇道にある肝心な宝物を見落とす可能性があるかもしれません。一方、足ののろい人はスピードが遅いけれど、その大事な宝物を拾っていくことがあるかもしれません。遠回りのように感じるかもしれませんが、少々とっつきにくい生理学的基本事項をしっかり解説します。生理学的思考は仮説を立てるのに重要です。次にエビデンスに触れ、臨床でどう実践していくかを解説していきます。本書を通じて、一例一例の異なる症例に対応できる豊かな思考を身につけられることを期待しています。さあ、一歩を踏み出しましょう。その一歩の先には“YES” が待っています。
2022年晩秋、朝霧煙るボタ山を望みながら。
2022年12月
飯塚病院 集中治療科
川上 大裕
目次
第1章 ショックとの出会い編
イントロダクション
Q.01 ショックにうまく気づく方法ってありますか?
Ⅰ ショックと3つの窓
Ⅱ ショックに出合ったら 〜ABCDアプローチ~
まとめ
Q.02 「血圧が保たれていれば循環はOK!」ではないのですか?
Ⅰ 酸素で紐解くショックの概念
Ⅱ 酸素需給バランスと灌流圧
①酸素需給バランスの維持
アドバンス:SvO2の規定因子
②灌流圧の維持
Ⅲ 血圧が低下していないショックとは
①プレショックという文脈
②血圧の絶対値では切れないという文脈
③「血圧」は維持できているが「灌流圧」が破綻しているという文脈
④「灌流圧」は維持できているが「酸素需給バランス」が破綻しているという文脈
⑤一見、灌流圧、酸素需給バランスが維持されているようだが組織低酸素をきたしているという文脈(ミクロ循環の障害)
アドバンス:敗血症性ショックとvasoplegic shock、cryptic shock
まとめ
第2章 ショックの初期蘇生編
イントロダクション
Q.03 ショックの輸液製剤の第一選択はなんですか?
Ⅰ 細胞外液製剤かアルブミン製剤か
Ⅱ 生理食塩液かリンゲル液か
まとめ
Q.04 血清アルブミン値が低い時はアルブミンを入れないのですか?
Ⅰ 分かっていること:使うべき症例と使うべきでない症例
Ⅱ 低アルブミン血症時の考え方
①アルブミンは理論上、血管内コンパートメントのみに分布する
②低アルブミン血症時には間質に水が漏れる
まとめ
Q.05 どれくらい輸液したらカテコラミンを開始すればいいんですか?
Ⅰ カテコラミンの選択
①フェニレフリン
②ノルアドレナリン
③ドパミン
④ドブタミン
⑤アドレナリン(エピネフリン)
⑥ミルリノン
⑦バゾプレシン
Ⅱ カテコラミン開始のタイミング
①バゾプレシンの併用開始タイミング
まとめ
Q.06 敗血症性ショックでのステロイドの使いどころが分かりません
Ⅰ CIRCIのエビデンス
Ⅱ SR&MAとCPG
まとめ
Q.07 人工呼吸の適応にショックがあるのはなぜですか?
Ⅰ 人工呼吸の適応
Ⅱ なぜショックで挿管人工呼吸管理が必要か
まとめ
Q.08 ショック時のエコーの当て方が分かりません
Ⅰ ショックの4つの分類
Ⅱ ショック時のエコーによる初期評価
①ポンプの評価
②タンクの評価
③パイプの評価
まとめ
第3章 初期蘇生後の輸液マネージメント編
イントロダクション
Q.09 乳酸値がまだ高いから、輸液したほうがいいですよね?
Ⅰ 乳酸値
①解糖系の亢進
②NADH/NAD+比上昇
③ピルビン酸デヒドロゲナーゼとサイアミンビスホスホネート
④クリアランス低下
Ⅱ SvO2とScvO2
Ⅲ PvaCO2ギャップ
①好気的条件下
②嫌気的条件下
アドバンス:ミクロの世界の飽くなき探求
まとめ
Q.10 フロートラックⓇってどんな時に使うんですか?
Ⅰ CO測定の侵襲度、正確性
①スワンガンツ
②ボリュームビュー
③フロートラック
④クリアサイト
Ⅱ 動的指標の評価
①CO(SV)変化を見るもの
②呼吸性変動を見るもの
アドバンス:フロートラックのCO測定原理
まとめ
Q.11 スワンガンツカテーテルって、もはや使われないんでしょ?
Ⅰ 血行動態的診断
①波形解釈
②圧解釈
Ⅱ 害のモニタリング
まとめ
Q.12 IVC評価って使えないんですか?
Ⅰ エコーでの静的指標評価
①CVP
②肺動脈収縮期圧
③左房圧≒PAWP
Ⅱ エコーでの動的指標評価
①CO(SV)変化を見る方法
②呼吸性変動を見る方法
まとめ
Q.13 輸液量って、実際どんな感じで調整してますか?
Ⅰ 実際にどうやって輸液を調整するか?
Ⅱ 点ではなく範囲で捉える。そして心不全vs.肺炎問題まで
まとめ
第4章 回復期の輸液マネージメント編
イントロダクション
Q.14 利尿薬を使うタイミングっていつですか?
Ⅰ ノルアドレナリンとバゾプレシンはどちらから下げるべき?
Ⅱ いつから水を引き始めるか?
①うっ血の評価
②いつ水を引き始めるか?
Ⅲ どれくらいのペースで、どうやって、どこまで引くか?
まとめ
終わりに
COLUMN
カテコラミン投与ラインと後押しの話
乳酸は悪者か?
敗血症性ショックの制限輸液
輸液反応性評価はCO(SV)でなく、血圧ではダメなのか?
体液過剰と抜管
血管収縮薬と抜管
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書籍情報
- ISBN:9784765319348
- ページ数:192頁
- 書籍発行日:2023年1月
- 電子版発売日:2023年2月22日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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