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- 神経認知障害群<講座 精神疾患の臨床5>
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序文
序
本書「神経認知障害群」は,【講座 精神疾患の臨床】5巻に位置づけられていたが,刊行順では本講座のしんがりをつとめることになった.これはひとえに,本書の編集担当である私の非力によるものであるが,ICD‒11における認知症の分類において大きな論争が起こり,最終版が確定するギリギリまで調整作業が続いていたことも一因ではある.いずれにしても,出版が遅れたために良いこともあった.2019年には認知症施策推進大綱が策定され,「認知症の発症を遅らせ,認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し認知症の人や家族の視点を重視しながら共生と予防を車の両輪として施策が推進されること」となった.そして,認知症基本法の審議も2023年中に開始される可能性がある.さらには,2021年にアルツハイマー病の疾患修飾薬であるアデュカヌマブが米国で承認され,続いて2023年の年初には,抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体のレカネマブが米国で承認され,日本や欧州でも承認申請が出されたところである.従ってこの前後数年間は,後世において認知症の研究や診療の大変革期と位置づけられる可能性が高いと思われる.ここでは,日本精神神経学雑誌のICD‒11の解説シリーズで,私が担当した「神経認知症群」1)の拙稿から一部を抜粋・加筆して,本書の序とさせていただきたい.
2013年に出版されたDSM‒5ではDementiaという用語が消え,認知症にほぼ相当するmajor neurocognitive disorders,軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)にほぼ相当するmild neurocognitive disordersが用いられるようになった.名称変更のきっかけの一つは,日本における痴呆(症)から認知症への名称変更が奏功したことにあるといわれている.すなわち,差別的ニュアンスを含んだ痴呆(症)から認知症に名称が変更されることにより,“認知症”は一般市民にとってより身近なものになり,スティグマが減少し,早期受診にもつながるようになったと評価された.そのことに異論はないが,neurocognitive disordersへの変更においてより重要だったのは医学の進歩によって“認知症”を発症する前から,かなり正確に原因疾患が診断できるようになった点が大きいと考えられる.すなわち,MCIの段階でも近時記憶の障害が明らかで,進行性で緩徐な認知機能低下があり,他の病因が否定できればpossible mild neurocognitivedisorders due to Alzheimer’s diseaseと分類される.さらに,遺伝子検査または家族歴のいずれかで,アルツハイマー病の原因となる遺伝子変異の証拠があればprobable mild neurocognitive disorders due to Alzheimer’s diseaseと分類されることになる.また,アミロイドPETが陽性ならば,症状がほとんどない段階(preclinical期)から,ほぼ確実にアルツハイマー病理が背景にあると診断できるようになった.すなわち,認知症の主要な原因疾患では,精神疾患特有の症候学的分類から,他科の疾病分類と同様に生物学的(病因に基づく)分類が場合によってはMCIやpreclinicalの段階から可能になってきたことを意味する.
そのことが,約30年ぶりに改訂されたICD‒11における認知症分類で大きな論争を巻き起こすことになった.当初は,ICD‒10分類の考え方を引き継ぎ,症候群としての認知症は第06章「精神,行動,又は神経発達の疾患群」に,アルツハイマー病やレビー小体病などの認知症の原因疾患は第08章「神経疾患」に配置する折衷案が考えられていた.その後,コードを付け,最終的な章をまとめる段階で,2016年末になって神経科(neurology)の側から認知症をすべて神経疾患に移動させる案が浮上し,日本精神神経学会をはじめ世界中の主要な精神医学会や老年精神医学会から反対意見がWHOに送られ,2017年早々に最終的には当初の折衷案で落ち着いた.
上述したように,バイオマーカーに基づく認知症診断の進歩は急速で,疾患修飾薬の開発に伴ってMCIの段階どころかpreclinicalの段階での超早期診断の可能性が模索されるようになってきている.たとえば,2017年に出版されたレビー小体型認知症の最新の臨床診断基準では,中核的特徴である注意や明晰さの著明な変化を伴う認知の変動,繰り返し出現する構築された具体的な幻視,レム睡眠行動異常症,特発性パーキンソニズムと並んで,SPECT/PETで示される基底核におけるドパミントランスポーターの取り込み低下,MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下,睡眠ポリグラフ検査による筋緊張低下を伴わないレム睡眠の確認,が指標的バイオマーカーとして,ほぼ同等に扱われるようになった.また,最近出版され本書でも詳述されているprodromalレビー小体型認知症の研究用臨床診断基準によれば,MCIの段階でも,認知の変動,繰り返す幻視,レム睡眠行動異常症,パーキンソニズムのうち2つ以上,あるいは,これら1つと上記の基底核のドパミントランスポーターの取り込み低下などのバイオマーカーが陽性であれば,probable MCI with Lewy bodiesと診断される.そして,MCI-onset,delirium-onset,psychiatric-onsetの3つの初期臨床像が示された.
生物・心理・社会モデルのうち,このような生物領域での研究成果が,上述したICD‒11の認知症分類で大きな論争を巻き起こすことになったが,当時日本精神神経学会の副理事長であった神庭重信が指摘しているように,認知症が精神(mental)の疾患か神経(nerves)の疾患かというこの問題は,はたして神経基盤で説明できない精神の病は存在するだろうかという問題に直結することになる2).伝統的な精神医学が捉えてきたように,素直に精神神経疾患と考えれば,特に問題はなさそうでもあるのだが,神庭が指摘しているように,現時点でわれわれが担当している“精神疾患”を近い将来誰が治療することになるかという問題は,結局のところ誰が最もよい治療を提供できるのかという当事者や介護者,社会の判断によると思われる.したがって,認知症の診断と分類をめぐる問題は,最もよい認知症の治療者であるという信頼を誰が得られるかということに帰結するように思われる.現時点で最もニーズのある認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia: BPSD)への対応や非薬物療法のみならず,本書でも多くの頁が割り当てられたバイオマーカーや疾患修飾薬の開発にも精神科医は積極的に関与すべきであろうし,認知症初期集中支援チームなどの認知症施策にも精通し貢献することが期待されているであろうし,認知症者の人権や高齢者の虐待問題,意思決定支援などにこそ専門性をはっきすべきであろう.
本書は最終章に「統合失調症以外の一次性精神症群」を包含している.これらの一次性精神症や4章「認知症の鑑別診断」で詳述されている老年期うつ病,老年期妄想症などは,認知症の鑑別診断として重要なことはいうまでもないが,prodromalレビー小体型認知症の研究用臨床診断基準でも明らかなように認知症のpreclinical期の初期症状としても注目されてきており,老年期精神疾患の疾病分類そのものが,近い将来大きく変わる可能性もある.
認知症医療は,まさに多職種によるチーム医療である.本書の収められた現時点での最新の知見を精神科医だけでなく,認知症診療に関わっている他の診療科の医師や専門職の仲間達とも共有できれば幸甚である.
2023年4月
大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室
池田 学
【文献】
1) 池田学.ICD‒11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ 各論⑱神経認知障害̶認知症診療は誰が担当するのか̶.精神経誌 2022; 124: 809‒814.
2) 神庭重信.認知症の分類問題̶そもそも精神疾患とはなにか̶.精神経誌 2017;119: 381.
目次
本書で用いるICD-11の日本語病名・用語および診断ガイドラインの和訳について (神庭重信)
1章 概念・疫学
認知症の概念と分類の歴史 (武田雅俊)
疾病概念と分類の歴史
せん妄 (池田研二)
軽度認知障害(MCI) (布村明彦)
健忘症 (三村 悠,三村 將)
老年精神医学における操作的診断基準の功罪 (古茶大樹)
認知症と軽度認知障害の疫学 (小原知之,二宮利治)
若年性認知症の疫学と生活実態 (粟田主一)
Topics 急増する独居認知症-social isolationとlonelinessの視点もまじえて (末廣 聖,池田 学)
2章 認知症の診断
認知症の国際診断基準分類 (數井裕光)
ICD-11と国際診断基準
アルツハイマー病による認知症 (井原涼子,岩坪 威)
脳血管障害による認知症 (伊井裕一郎,冨本秀和)
レビー小体病による認知症 (藤城弘樹)
前頭側頭型認知症 (川勝 忍,小林良太)
バイオマーカー
脳脊髄液・血液バイオマーカー (池内 健)
形態画像バイオマーカー (松田博史)
機能画像バイオマーカー (樋口真人)
Topics DLBのバイオマーカー (笠貫浩史)
Topics 認知症と炎症 (門司 晃)
Topics 認知症と神経伝播 (長谷川成人)
3章 認知症の症候学
アルツハイマー病による認知症 (内山 信,今村 徹)
脳血管障害による認知症 (森 悦朗)
レビー小体病による認知症 (橋本 衛)
前頭側頭型認知症 (品川俊一郎)
精神作用物質(医薬品を含む)による認知症 (船山道隆)
パーキンソン病による認知症(PDD) (木村康義,望月秀樹)
進行性核上性麻痺(PSP)による認知症と大脳皮質基底核変性症(CBD)による認知症 (石塚貴周,中村雅之)
ヒト免疫不全ウイルスによる認知症と神経梅毒による認知症 (加藤賢嗣)
頭部外傷による認知症 (深津玲子)
慢性硬膜下血腫とiNPH(特発性正常圧水頭症) (吉山顕次)
Topics Diogenes症候群 (垰夲大喜,池田 学)
4章 認知症の鑑別診断
認知症と老年期うつ病 (前嶋 仁,馬場 元)
認知症と老年期幻覚・妄想症(サイコーシス) (池田 学)
認知症とてんかん (吉野相英)
認知症と神経発達症 (清水秀明,堀内史枝)
薬剤性認知機能低下 (村岡寛之,稲田 健)
Topics 認知症と糖尿病 (羽生春夫)
5章 認知症の治療
認知症疾患診療ガイドライン (中島健二,深田育代)
作業療法 (村井千賀,北村 立)
音楽療法 (佐藤正之)
Topics 認知症患者の家族介護者に対する心理療法 (木下奈緒子)
精神療法 (繁田雅弘)
IoT (東 晋二,新井哲明)
Topics 神経心理検査 (鈴木麻希)
薬物療法
抗認知症薬 (中村 祐)
疾患修飾薬 (栗原正典,岩田 淳)
Topics iPS細胞による抗認知症薬の開発 (坂野晴彦,奥宮太郎,井上治久)
抗精神病薬 (新井平伊)
Topics 遠隔医療 (江口洋子,岸本泰士郎)
6章 認知症と社会
認知症者と人権 (齋藤正彦)
老人偏見・差別(Ageism)と老人虐待 (松下正明)
Topics 高齢者の意思決定 (樋山雅美,成本 迅)
Topics 人生の最終段階における医療とケア-人工的水分・栄養補給法の問題を題材に (会田薫子)
認知症施策 (田中稔久)
Topics 世界の認知症施策 (石井伸弥)
Topics 認知症疾患医療センターを中心とした認知症診療 (内海久美子)
Topics 認知症初期集中支援チーム (繁信和恵)
Topics 認知症神戸モデル (長谷川典子)
認知症と自動車運転 (上村直人,藤戸良子)
介護負担感 (小山明日香)
Topics 若年性認知症の家族の会活動と役割 (平野憲子)
Topics DLBサポートネットワーク (内門大丈)
Topics 認知症の啓発?地域の図書館利用 (山川みやえ)
Topics ブレインバンク (村山繁雄,齊藤祐子)
認知症の医療人類学?希望の再構築に向けて (北中淳子)
7章 ICD-11における統合失調症以外の一次性精神症群
統合失調感情症 (須賀英道)
統合失調型症 (忽滑谷和孝)
急性一過性精神症 (針間博彦)
妄想症 (宮田 淳)
物質誘発性精神症と他の医学的疾患による精神症群 (糸川昌成)
カタトニアの位置付け (針間博彦)
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書籍情報
- ISBN:9784521748252
- ページ数:584頁
- 書籍発行日:2023年5月
- 電子版発売日:2023年5月20日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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