序文

本書は，雑誌『小児科臨床』にて1年間にわたって掲載された「小児科学レビュー─最新主要文献とガイドライン─」を収録したものです。「小児科学レビュー」は小児医学の各領域でトピックとなっている疾患や分野を中心に，最新の研究成果を取り上げ，その内容をまとめたものです。

小児医学と小児医療は両輪となって絶えず進化しております。最適な医療をこどもたちに提供するために，小児科医は最新の研究成果をつねに追い求め，理解し，それを臨床実践に結びつける必要がありますが，情報は加速度的に新たに集積しています。すべての知識を最新のものとすることは困難なほど，高度化・複雑化した情報が氾濫する時代になっています。

「小児科学レビュー」では，疾患領域の中でも進歩が目覚ましいテーマを中心に，最新の論文の成果がもたらす臨床的な意義を専門家の視点からレビューしていただいています。さらに，ただの論文の概要の記載にとどまらず，それぞれの疾患においてどのような課題が注目されているかを踏まえ，研究がなされた背景を解説していただき，また，論文を解釈する上での注意点や，成果から生まれる新たな課題についても言及していただいております。レビューで概要を掴んだうえで，興味を持った文献については原著を精読していただくことをお勧めいたします。そのうえでもう一度レビューに戻ると，第一人者の視点が見えてくるはずです。

小児科学が細分化された一方で，小児医療の根底にあるのはこどもの「こころ」と「からだ」を支える全人的な医療であり，それぞれの分野は相互に関係しております。そこで，「小児科学レビュー」で執筆者の先生方に詳細に説明していただいた小児医学・小児医療の進歩を俯瞰的に理解できるよう，一冊の本にまとめたものが本書『小児科学レビュー2023』であり，主に2021～2022年の論文の成果によるupdate がとりあげられています。ぜひ，自らの専門領域以外においてもお目通しください。着々とエビデンスが積み重ねられ，常識と思っていた知識が過去のものになっていることに驚かれると思いますし，そこには自らの専門領域をさらに飛躍的に進歩させるヒントが隠れているかもしれません。

本書『小児科学レビュー2023』は，小児科学の進歩の象徴となる書籍です。執筆者のみなさまの多大なご協力をいただき，さらには編集部のご助力により，編集者の想像を超える充実した内容になりました。本書を通じて，小児科学・小児医療の面白さをお届けすることで，最新の研究成果と実践的な経験を融合し，臨床の現場で役立つ知識になるとともに，知的好奇心を刺激することで新たな研究の着想のきっかけになることを願っています。

2023年8月

長谷川奉延
加藤元博