序文

2000年代に生じた日本の診療ガイドラインの出版ラッシュでは，腎疾患治療や透析医療についても，複数の診療ガイドラインおよびその類書が溢れ，ネット経由のものも含めた情報過多のために，臨床現場は混乱気味であった．そこで情報の整理を目的とした，いわば標準的なガイドラインのガイダンスともいうべきテキストの必要性から，「最新ガイドラインに基づく腎・透析診療指針2021-’22」が出版され，幸いにも好評をもって迎えられた．それから早くも2年が経過し，その間にも腎・透析診療に関するガイドラインとして，「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022」「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」「血尿診断ガイドライン2023」「非典型溶血性尿毒症症候群（aHUS）診療ガイド2023」や「高齢腎不全患者のための保存的腎臓療法─CKMの考え方と実践─」が，新たにもしくは改訂出版され，またSGLT2阻害薬やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬など，世界最初のCKDに対する保険適応を有する治療薬が利用できるようになった．

このような状況を踏まえて「最新ガイドラインに基づく腎・透析診療指針2023-’24」では，腎・透析診療のエキスパートの先生方に執筆者としてご協力いただき，幅広い分野における最新のエビデンスと診療ガイドラインに記された標準治療について，実臨床に即活かせるよう極めてプラクティカルな視点でご執筆いただいた．特に本書では，最近発刊されたガイドラインの改訂内容が，各エキスパートの先生方により加筆されており，その最新の状況が一目でわかるように工夫した（「ガイドラインの現況」の変更点を　　　で明示）．

2018年7月，厚生労働省健康局がん・疾病対策課から，「腎疾患対策検討会報告書〜腎疾患対策の更なる推進を目指して〜」が発出された．その中で，今後10年の目標として「慢性腎臓病（CKD）を早期に発見・診断し，良質で適切な治療を早期から実施・継続することにより，CKD重症化予防を徹底するとともに，CKD患者（透析患者及び腎移植患者を含む）のQOLの維持向上を図る」ことが示されている．2023年はその10年の前半5年が終わった，折り返しの年にあたる．腎疾患治療と透析医療に関わるすべての医療者に，知識をアップデートし日常診療の実践的な指針とすべく本書をご活用いただくことで，後半5年間での腎疾患対策検討会報告書に示された目標達成のための一助となれば幸いである．

2023年7月

埼玉医科大学医学部 腎臓内科 教授
岡田浩一