はじめに

「BSC（バランス・スコアカード）に関する特集をご依頼したい」。そうご連絡をいただいたのは、季節が暖かくなってきた時期だと記憶しています。月日が経つのは本当に早く、気がつけば秋の気配がする頃に書き上げることになりました （編集の皆さまはじめ多くの方々に本当にご迷惑をお掛けしました） 。

あえて申し上げますと、私はBSC の専門家ではありません。経営戦略や組織づくりのお手伝いすることを専門として、全国の医療機関のみなさまに知識と経験、そして知恵をご提供している中で、そのお客様に応じてBSC の要素を取り入れた支援を行っています。そのため、この本では「正しいBSC の方法」をお伝えするのではなく、「BSC をはじめとした経営マネジメント手法を用いて、正しく組織が機能する方法」をお伝えしようと執筆を決意しました。

ところが、この原稿を仕上げるのはとても体力・気力が必要でした。私は、どちらかというと筆が早い方だと自負していたのですが、その自信が木っ端みじんになりました。その理由は、BSC は組織運営上とても有用なものであることはすぐに理解できる反面、実際に運用するとなると非常に難しいものだからです。本文でも記載していますが、私はBSC そのものをツールとして有効に活用することが継続してできている組織にほとんど出会ったことがありません。反対に言うと、どのお客様も悩みに悩んでいました。気が付けば、「目標管理に関する私の想いを文章にしたい」、一方で「どうしたらよりみなさまに伝わりやすく、実際の現実的な行動変容につながるのか」と考えながら、文章を書いては消して…と、試行錯誤の執筆になりました。

「なぜ大切なことだとみんなが思っているのに、実行することが難しいのか」と、組織マネジメントを通じて思われることは多々あると思いますが、BSC をはじめとした目標管理をする仕組みも同じだと思います。例えば、健康な生活は継続することが大切だと分かっているのに、怠惰な生活に流れる自分もいます…。大切さを理解していることと、実行することとはまったく異なるのかもしれませんね。どうすれば人の心と体が自然と動いた方がよい方向に進み出せるのか、そんなことを意識しながら書き綴りました。

お時間と心に余裕がありましたら！　どうか、読み飛ばさずに最初から目を通していただけると、著者としてとても嬉しいです。

秋の増刊号ということで、季節の変わり目は体調が揺らぐこともあると思います。どうぞみなさまが心身をご自愛くださることを願いつつ、この本がみなさまの組織のお役に立つことがあれば幸いに存じます。

最後になりますが、このような機会をいただいた株式会社メディカ出版に心から御礼申し上げます。

2023年9月

株式会社メディフローラ代表取締役　上村 久子