関節外科 2024年3月号 非外傷性肩関節不安定症とどう向き合うか

  • ページ数 : 128頁
  • 書籍発行日 : 2024年2月
  • 電子版発売日 : 2024年2月10日
2,750
(税込)
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商品情報

序文

introduction

「ゆるい肩」という言葉には曖昧な印象があります。肩がゆるくても症状がない人もいれば,外傷がないにもかかわらず肩のゆるい状況によって痛みや生活に困る人もいます。本号の特集は,明らかな外傷がなく生じた「ゆるい肩(非外傷性肩関節不安定症)」を念頭に企画いたしました。

非外傷性肩関節不安定症には,病態や診断の基準,分類においていまだに解決されていない多くの問題が存在しています。外傷で発生する不安定症と比べ,原因が形態異常でないことが多いため難しい疾患です。私が臨床フェローとして1998 年から2 年間イギリスの病院にいた頃のヨーロッパでの体験として,当時この疾患に対しMatson の提唱したTUBS とAMBRI 分類が治療をも含む画期的分類として研修医や医学生の間にまで周知された時期でした。医学生のなかでさえも大変好評な分類ではありましたが,そのわずか数年後の2003 年には,TUBS とAMBRI 分類の50%の症例が分類に対応できていないという衝撃的な論文が『JBJS』に報告されました。TUBS とAMBRI 分類で対応できていなかったその割合の多さに大変驚いたことを覚えています。兎にも角にもこの疾患は分類・区分けが難解であると深く感じました。その一方で,日本に帰国後にTUBS とAMBRI 自体がさほど認識されていなかったことにはさらに驚かされました。この疾患に対する海外とわが国における情報や認知の差の違和感を感じた次第でした。この疾患に対する認識の差は現在も継続しているかもしれません。わが国ではこの20年間においては大きな発展や変化はなく現在まで経過しているように感じます。しかし,患者は存在し,治療の第一選択は保存療法であるため,治療の最前線には理学療法士の方々が症例を受け持っています。そのため理学療法のなかでは疾患への対応が単に肩関節という局所的な部位から肩甲骨への対応がいかにあるべきか認識してきた状況があり,胸郭不全という考えに及び,さらにその解決には体幹全体の運動力学的知識が深く必要とされることが経験のなかから獲得され,専門性が深くなっているように思います。また,腕神経叢の牽引症状や精神的な配慮など,総合的な組み合わせによる知識の対応が進んできていると感じます。経験から学び対応している点で,日本の理学療法士は素晴らしいと思います。しかしながら,まだ体系的な治療が確立されていない状況にあります。

このことを踏まえ,本特集は現在の世界のスタンダードの概念,診断,神経との関連や肩のゆるさを伴うスポーツ,治療装具,そして最も症例的に難しいEhlers-Danlos 症候群の症例経験をお願いしました。保存療法で対応しきれない難しい症例に対する外科治療は,症例の多い船橋整形外科病院と松戸整形外科病院にご執筆をお願いしました。また,主体となる治療は理学療法であるため,積極的に取り組まれている愛知医科大学,昭和大学,松戸整形外科病院にその治療の計画性や実践の場での工夫のポイントをお願いしました。

20 年ぶりの特集であるため,本号は医師のみならず多くの理学療法士の読者に,将来にわたり長く参考にされる良い特集号になればと心から願っています。


熊本整形外科病院
北村歳男

目次

特集:ゆるい肩(非外傷性肩関節不安定症)とどう向き合うか  企画・編集:北村歳男

1.概論

非外傷性肩関節不安定症とは  井樋栄二

2.診断と治療選択

非外傷性肩関節不安定症の混在する病因への対応:トライアングルセオリー  北村歳男ほか

非外傷性肩関節不安定症の診断と徒手検査法  名越 充

ゆるい肩と神経症状:胸郭出口症候群とのかかわり  船越忠直ほか

スポーツにおけるゆるい肩に対する診断と治療  山崎哲也

3.手術療法

非外傷性肩関節不安定症に対する鏡視下手術の適応と限界  高橋憲正

非外傷性肩関節不安定症における直視下手術の適応と限界  荻野修平

4.保存療法

非外傷性肩関節不安定症における装具療法の位置付け  大前博路ほか

理学療法士としての非外傷性肩関節不安定症症例への向き合い方:計画の立て方と訓練の工夫  野口 悠ほか

非外傷性肩関節不安定症におけるPNFを利用した治療について  遊佐 隆

非外傷性肩関節不安定症:スポーツでのリハビリテーション  飯田博己ほか

5.Ehlers-Danlos 症候群の治療経験

私のEhlers-Danlos症候群の経験:肩関節の手術症例について  菅谷啓之

私のEhlers-Danlos症候群の経験:複数の装具による保存療法を行った肩関節多方向不安定症の1例  徳永琢也ほか

連載

・傷をきれいに治す~外科的治療成功への第一歩~(第6回)

 「外傷に伴う傷の扱い方」  松村福広

・話したくなる 整形外科 人物・用語ものがたり(第20回)

 「ガラスの天井をぶち破った近代日本最初の女性医師:荻野吟子」  小橋由紋子

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書籍情報

  • ISBN:9784008204303
  • ページ数:128頁
  • 書籍発行日:2024年2月
  • 電子版発売日:2024年2月10日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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