序文

泌尿器外科編集部よりアンドロロジー関連の特集のご依頼をいただいた際に，男性不妊や性機能障害に関する診断や治療について列挙させていただき，その中から重要なものをピックアップしていただく予定でした。編集部の先生方のご厚意や，不妊治療の保険適用化に伴う泌尿器科医の責務の重要性などを考慮され，1月号の「これで迷わない男性不妊症・性機能障害への対処」に引き続き，今回は第2弾として手術療法に焦点を絞り特集を組ませていただきました。

男性不妊・性機能障害診療への志を持たれる泌尿器科医が年代を問わず増加しています。しかしながら，この分野に求められるスキルはマイクロサージェリーが基本となります。腹腔鏡技術認定医などの系統的な技術教育が，本邦では未確立です。保険適用となった2022年以降，high volume施設に対して，一定期間のアンドロロジー診療に関する研修をご希望される若手医師や医局からの要望が増加しており，日本生殖医学会においては効率的な研修システムの構築が急務となっている状況です。

そのような背景を鑑み，今回は6名のエキスパートの先生方より代表的な術式に関する玉稿を頂戴しております。最も頻繁に施行されうる精索静脈瘤静脈低位結紮術については竹島先生（横浜市立大学附属市民総合医療センター），最も難治である非閉塞性無精子症に対する顕微鏡下精巣内精子採取術（micro-TESE）については梅本先生（名古屋市立大学医学部附属西部医療センター），閉塞性無精子症に対する精路再建術について谷口先生（関西医科大学）にご執筆いただきました。これらの手技については精索静脈低位結紮術やmicro-TESEから開始し，精管―精管吻合，そして一挙に難易度が上がりますが，精管―精巣上体吻合へステップアップが効率的かと思います。性機能障害においても陰茎プロステーシスや血行再建術など多彩な術式が存在しますが，比較的頻度の多いペロニー病の手術について永尾先生（東邦大学）にご解説いただきました。

尿道下裂や外傷治療後の不妊や性機能障害症例に遭遇する機会が増加しています。成人の陰茎弯曲や瘻孔などについてのコンサルトを受けられたご経験のある先生方も多いと推測されます。成人の尿道形成について兼松先生（兵庫医科大学）にご解説していただきました。慢性陰囊痛については慢性前立腺炎などとして漫然と投薬が行われたり，逆に精巣摘除などが施行されるケースがいまだに多いようです。顕微鏡下精索除神経について岡先生（山口大学）に解説していただきました。

長年苦しんでいた疼痛から，すっきり解放された患者さんの喜ぶ姿を見ると，この手術はやめられません。いかなる診療分野においても変化は不可避です。これらについて新たなsurgical andrologyという観点から，本邦の出版物においてはじめて取り上げられる機会となりました。

非常に専門性の高いこの領域についても，経尿道的手術，ラパロ，そしてロボット手術に柔軟に対応してきた私たち泌尿器科医であればその習得は困難ではないはずです。精索静脈瘤を診断し，顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮を自力で完遂し，自然妊娠であっても顕微授精であっても，妊娠・出産という患者さんが望む最大のアウトカムが達成できれば，立派なandrology surgeonです。

山口大学大学院医学系研究科泌尿器科学講座
白石　晃司