第5版の発行にあたって

『耳科学アトラス』の初版は，1974年（昭和49年）に㈱中外医学社から出版された．従って再来年の2024年は初版から数えて50年目に当たる．その間，耳科学の発展には著しいものがあり，第4版まで改訂のたびに内容を充実するように努めたがとても十分とは言えない．50年目を迎えるに当たり第4版刊行から僅か6年しか経過していないが，少しでも充実した『耳科学アトラス 第5版』の改訂を上梓したいとの希望を持っていた．幸いにも丸善出版のご理解をいただき，それが現実のものとなった．

この度の改訂第5版は第4版に比べて約50頁の増加となった．その内容の主たるものは「Chapter01側頭骨（I）」に側頭骨の垂直断標本図説を追加したことである．この側頭骨標本はピッツバーグ大学の故・山藤勇名誉教授の研究室で製作されたもので，山藤先生には生前に垂直断の部分を将来『耳科学アトラス』へ借用させていただきたいとお願いしてご了解をいただいていた．標本のカラー写真および詳細な説明は山藤先生の著『臨床医のための側頭骨・耳管アトラス』（金原出版，1998年）に記載されているので，是非とも原著をご覧いただきたい．ここに改めて山藤勇先生に感謝申し上げる．

臨床耳科学が，ここ10年程で急速に進んだのは内視鏡の普及によるところが大きい．1950年代に手術用顕微鏡が耳科手術に使用されて鼓室形成術が進歩・普及したが，内視鏡の導入により手術用顕微鏡では見えなかった部位が可視化され治療の対象となってきたのである．内視鏡で開かれた世界を観察・治療するに当たり必要となる解剖学については従来の『耳科学アトラス』ではあまり記載がなされておらず，今回の改訂版に取り込むこととした．増頁数の3分の2は「Chapter 06鼓室」に関する記述である．

また，第5版では解剖学用語が旧版とは異なった個所もある．これは以前に記載されていた用語が変更されたこと，使用されなくなったことによる．さらに日本語の用語は『解剖学用語 改訂13版』（医学書院，2007年）に改めたこと等による．

この3年間はコロナ禍により，さらに半年程前からはウクライナ侵攻も加わり世の中が大きく変わりつつあるのを実感している．この難しい時期に本書が上梓できたことは多くの方々のご支援があってのことである．特に執筆，資料提供，校正，助言等のご協力をいただいた方々のお名前をここに記して感謝を申し上げたい．

飯野ゆき子（自治医科大学名誉教授）

大石　直樹（慶應義塾大学准教授）

欠畑　誠治（山形大学教授）

小松崎　篤（東京医科歯科大学名誉教授）

岩﨑　真一（名古屋市立大学教授）

加我　君孝（東京大学名誉教授）

樫尾　明憲（東京大学准教授）

東野　哲也（国際医療福祉大学病院 教授）

日比野　浩（大阪大学教授）

森山　浩志（昭和大学准教授）

星野　知之（浜松医科大学名誉教授）

山岨　達也（東京大学教授）

（敬称略，50音順）

ちなみに第5版では，下記の方々に共著者として加わっていただいた．

原田　勇彦（元帝京大学教授）

平出　文久（元東京医科大学教授）

木村百合香（東京都立荏原病院医長）

奥野　妙子（三井記念病院特任顧問）

小林　一女（昭和大学教授）

また多数の文献検索，他大学よりの借用手続等にご協力いただいた森山郁子氏（昭和大学図書館司書）に対して，その迅速かつ着実な対応に感謝したい．『耳科学アトラス 第4版』同様，今回も昆工氏（スタジオ・コア）に図版の制作をお願いしたが，初版を担当した宮本博茂氏にも一部のイラストを担当していただいた．お礼を申し上げたい．

最後に思慮深く編集業務を進めて下さった丸善出版の渡邉美幸氏に衷心より感謝している．

2022年11月吉日

野村 恭也