イントロダクション

この本は、アトピー性皮膚炎のお子さんをもつ多くの親御さんが抱えているステロイドの塗り薬へのぼんやりとした不安を和らげ、ステロイドの塗り薬を正しく知り、適切に使ってもらうための本です。

きっと、この本を手に取ってくださったあなたは、お家のことやお仕事を一生懸命やっていて、自分のことは後回しにして、毎日お子さんのスキンケアも頑張っているのではないでしょうか。

その一方で、子どもがスキンケアを嫌がったり、ボリボリと掻いてしまったりしている姿にイライラしてしまうこともあるかもしれません。

また、ステロイドの塗り薬をお医者さんの言うように塗っているけど、「こんなに塗ってもいいのだろうか？」と不安になっているかもしれません。

SNSなどインターネット上の情報を見ると、怖いこともいろいろ書いてあります。本屋さんに行っても、かかりつけ医の先生から教えてもらった治療とは全く違うことが書いてある本や、良さそうだなと思っても難しくて読めない本も多かったりで、困ってしまいますよね。

僕は、神戸の公立病院で働いているアレルギーを専門とする小児科医です。急病の患者さんの中にも、お肌がガサガサしているお子さんを少なからずお見かけします。そんなお子さんの親御さんに、どんなスキンケアをしているか尋ねると、特にステロイドの塗り薬の知識が不足していて、大きな誤解をしていたり、残念な使い方をしていたりすることが多いことに気づきます。ステロイドの塗り薬に関して、ほんのちょっと知識があればツルツルのお肌になれるのに、と残念な気持ちになります。

この本では、まずアトピー性皮膚炎とステロイドの塗り薬の歴史からお話しを始めています。それぞれの歴史を知ることで、どのような流れでアトピー性皮膚炎にステロイドの塗り薬が使われるようになってきて、現在に至るのかがわかるからです。

次に、ステロイドの塗り薬の良いところと悪いところについて包み隠さずお伝えします。悪いところもわかっているからこそ、良いところをしっかりと引き出すことができるからです。また、知らず知らずのうちに良かれと思ってやっている、けど実は間違った使い方についてひとつひとつ取り上げて解説しています。せっかくなら正しいやり方でやるほうが、結果も出やすく手抜きができるからです。

そうは言っても、アトピー性皮膚炎は地道なケアを要する厄介な病気です。だからこそ、日々のスキンケアが楽しくなければ、ツルツルのお肌をキープするのは難しいです。そのため、楽しくスキンケアをするためのコツについてもいくつか提案しています。

そして最後に、新しい治療を含めた、これからのアトピー治療について書きました。新しい治療はこれからも次々に出てくると思います。とはいえ、スキンケアの基本はそんなに大きく変わるものではありません。

安全ですぐに効果が出る魔法のような何かを追い求めるのではなく、「普通のことを普通にする」ことが結局は一番の近道であることを理解していただけると思います。「普通のことを普通にする」ということがどういうことなのかは本文を読んでのお楽しみです。

もし僕に診察に使える時間がたっぷりあったら目の前のお子さんと親御さんにお話ししたいと思っている内容を、この本にギュッと詰め込みました。最初から最後まで目を通すのは大変だと思いますので、目次を見て気になったところだけつまみ読みをしていただければと思います。

「自分でもできそうなことを、どれかひとつくらいやってみよう」という気持ちで読んでみてください。なお、この本の中には、6歳の女の子の患者さんが描いてくれた僕の似顔絵のアイコンが所々に出てきて、本文の理解をサポートしてくれています。いくつアイコンが出てくるか数えてみるのも楽しいかもしれません。

最後に、素敵な推薦文を書いてくださった堀向健太先生、かわいいイラストを描いてくださった近田光明先生、なかなか筆が進まない僕を優しく煽りながらも素敵なアイデアをたくさんくださった丸善出版株式会社企画・編集部の渡邉美幸さん、僕の小児アレルギー診療をサポートしてくれる仲間達、僕にたくさんのエネルギーを与えてくれるアトピーの子ども達と親御さん達、僕のことを大切に思ってくれている妻と子ども達、この本を書く僕の背中を押し続けてくれた父の輝夫に深く感謝申し上げます。

2023年11月吉日

岡藤　郁夫