監修のことば

整形外科の手術はさまざまな部位にわたり、そして使用する手術器械やインプラントの種類も多く、少なからず苦手意識をもっている手術室看護師もおられることと思います。私の専門である骨折治療の分野では、AO Trauma という教育財団が以前から手術室看護師（ORP）向けの研修会を開催しており、毎回たくさんの受講希望があります。骨折治療以外では看護師さん向けの研修会の存在はあまり聞くことがなく、多くの看護師さんは先輩に聞いたり、巷の雑誌や書籍を読んで事前学習を行ったり、中にはインターネットでYouTube などから動画を探し出して手術の準備をするという涙ぐましい努力をしてくれている看護師さんもいます。病院によっては手術ごとに看護師用のマニュアルが整備されているような病院もあるかと思いますが、はじめての手術やあまり入ったことのない手術、そして準備もできないままの緊急手術は誰もが不安を感じます。すこしでも新人ナースの術前の不安を軽減できるように、メディカ出版さんから動画を用いた書籍を作りたいとご相談をいただきました。編集担当者の森田さんと何度も話し合い、過去にはないような本を制作することを決め、臨床現場で今まさにご活躍中の先生方に原稿の執筆をお願いしました。

私が臨床留学したドイツ・アーヘン大学病院では、整形外科の手術室看護師（ORP）は他科の手術にはつかず整形外科に特化しており、非常にレベルの高いものでした。国内ではなかなか整形外科に特化した看護師の育成というのは難しく、整形外科以外の科の手術も勉強する必要があり、効率的に整形外科の手術の準備もする必要もあるでしょう。そこで新しい試みとして、英語学習のように整形外科の手術中に繰り広げられる医師とのやりとりを楽しく学べるページも作成しました。初学者にはとっつきにくい用語集が手に取りやすいものになっているかと思います。そして、この本では臨床の最前線の医師がさまざまな「エキスパートのワザ」を書いてくれており、新人ナースだけではなく、ベテランナースにも役立つ内容となっています。これまでの知識の整理にもなり、日ごろの疑問も解決し、若手の指導にも自信をもって臨めるかと思います。本書を使って、手術室看護師のみなさんが楽しく手術の準備をして、すこしでも安心して手術に臨んでいただき、われわれ整形外科医師と、患者の機能を回復させる整形外科手術の楽しさ、素晴らしさをともに共有できればと思います。

最後になりましたが、日々の激務のなかで睡眠時間や趣味、ご家族との時間を削って、この国の整形外科手術のレベルアップのために、熱い気持ちをこめてご執筆いただいた先生方に改めて深謝いたします。多くの手術室看護師の日々の業務に役立つことを祈念し、序文のご挨拶とさせていただきます。

2023年12月

明石医療センター整形外科医長
脇 貴洋