はじめに

新人が質問もしないし、課題の相談にも来ないので「大丈夫？」「悩んでいることはない？」と声を掛けたり、休憩時間に距離を縮めようとプライベートな話をしたり、休みの翌日に「昨日は何してたの？」と聞いたりして、親近感を与えようとしていませんか？

実はあなたがよかれと思ってやっているこの関わり方は、Z世代のナースたちにとっては、あまり効果的ではありません。彼らには、上から目線の指導や古い考え方の押し付けが「過度な管理」と否定的に受け取られてしまうからです。さらに「ほめて育てるとよい」という研修も、彼らにとってはあまり価値のないものかもしれません。「すごいね」「がんばれ」といった表面的な励ましはあまり効果がなく、「常識」「決まり」「私があなたの歳だった時には」といった言葉も、ウザがられるだけです。

若手スタッフを指導・育成するあなたに必要なのは、彼らの考え方や価値観を理解し、彼らと一緒に成長することです。

これを読んで、指導者である皆さんの多くが、「なんで私たちが若い世代に合わせなければならないの？」と思ったのではないでしょうか。この疑問に対し、私は次のように答えます。

「指導には２つの要素が必要です。ひとつは人に好かれる力、もうひとつは人から嫌われない力です。とくにZ世代には、彼らから好かれ、尊敬される接し方やコミュニケーションが求められます」

ずばりZ世代の彼らが求めているのは、「安心して働ける心理的安全性が高い職場」と「それを提供してくれる上司・先輩」です。

「ほめる＆叱る」「わかりやすく納得できる指示」「自分が正しいのか間違っているのかについての的確なフィードバック」など、本書には、あなたがそれを実践するための指導方法や関わり方について、具体的なアドバイスが書かれています。読み終わったら、新人や若手の指導に対して自信と理解が深まっていることでしょう。

約10年前、私は多くの昭和世代の指導者から「ゆとり世代への指導が難しい」という相談を受けました。ゆとり世代は、ほめることで成長する傾向にありましたが、ほめるのが得意ではない昭和世代の人たちがほめ続けてもあまり効果は出ませんでした。

指導とは振り子のようなもので、ほめるというプラスを与えたならば、叱るというマイナスも与えることが必要です。このほめると叱るのバランスで、人が育ちます。ここから「ホメシカ理論」が生まれました。

2012年に初の「ホメシカ理論セミナー」を開催し、2014年には『ホメシカ理論』が出版されました。セミナーや研修会で、ホメシカ理論に基づく若手指導が注目を浴びました。そして、2018年には看護分野に特化した本書の初版である『教えて！ホメシカ先生 今どきナースのほめ方・しかり方』が刊行され、ゆとり世代の若手スタッフの育成を担当するナースから大いに支持をいただきました。

出版から５年以上が経過し、ゆとり世代の人たちも指導する立場になりました。世代が変われば、指導方法も変わります。そこで初版を大幅に加筆・再編集し、Z世代スタッフへの指導にたいへん有効な「伝え方」も新たに加え、改訂版である本書が完成しました。

新人や若手を育て、自分自身も看護職としてキャリアアップし、離職の少ない快適な職場環境を形成するためには、専門知識を高めるだけではなく、人材育成の能力が必要不可欠です。

本書を通して、あなたがZ世代のナースたちとの効果的なコミュニケーションの方法を学び、彼らの能力を最大限に引き出し、彼らと共に成長することができればうれしいです。

2024年1月

野津 浩嗣