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- あめいろぐ移植 “Ameilog”book on organ transplantation
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内容
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序文
監修者のことば
この本は 医学・神学・文学・行動心理学,そして“歴史”を愛する人に捧げるつもりで上梓しました.2つの問いを投げかけたかったのです.1つ目の問いは,
なぜ,移植医療が日本に普及しなかったのか?
日本社会は1970~2020年の50年間で過去に一度もしたことのない選択をしました.日本は,日本列島の外に発展した文明をいつも積極的に吸収してきたはずですが,なぜか,この50年のあいだ,移植医療という圧倒的に強力なイノベーションを取り入れてこなかったのです.
日本にも生体移植は導入されましたが,それは「病気で不全となった患者の臓器を,“脳死”という状態で亡くなった人の健全な臓器と取り替える」という意味での社会構造を変える医療イノベーションには当てはまりません.「これから取り入れられるのでは?」と思うかもしれませんが,この50年という長い歳月をもって振り返るならば,日本の現状は,移植医療を意図的に選択しなかったといっても過言でありません.つまり日本に移植医療というパラダイムシフトが起こらなかったことは,医学史上の一大事にとどまらず,これは日本に住まう人々の集団的特徴を考えるうえで,決定的に大切な歴史的に起こらなかったイベントです.起こったことを検証するのが歴史の醍醐味ですが,起こらなかったことを浮き彫りにすることも歴史の使命と思います.
面白いことに,韓国やシンガポールなどでも移植医療のパラダイムシフトは起こっていないことを考えると,この話は東洋的思想と西洋文明の相互作用を浮き彫りにする格好の命題のはずです.
そして,もう1つの問いは,
日本に住む1人ひとりが,なぜ脳死臓器提供の意思を明示しないのか?
このことは人文科学(リベラルアーツ)によって扱われるべき問いと思います.地球温暖化や少子化問題など,近年では社会問題が一般の人々の身近で扱われることが増えてきました.しかし,移植にかかわる「脳死臓器提供」についてはほとんど語られてないように思われます.移植が始まった1970~80年代の日本人は脳死の考え方に拒絶反応を示しました.しかし,あれから40年が経ちます.
あの頃脳死を拒んだ昭和世代の人たちは,今ではもう寿命を迎えられています.
そろそろ新しい価値観をもった次世代の人たちに,もう一度,移植医療と脳死について価値判断を求める時期と思います.地球温暖化などの社会問題に直接的なかかわりを求め,行動に移すことに価値を見出すのが21世紀に成人した新世代の特徴といわれています.「移植医療」と「脳死臓器提供」こそ,うってつけの社会問題だと思います.
人はみな,いつか死にます.
その必ず起こるイベントにおいて,直接的に,社会にとてつもない影響を残すことができるのが「移植医療」と「脳死臓器提供」です.脳死臓器提供をすれば,少なくとも7人の移植を待っている患者(7つの臓器:心臓・肺・肝臓・小腸・膵臓・腎臓×2)を死の淵から救うことができます.臓器提供の意思選択という個人の行動をほんの少しだけ変えるだけで,こんなにも社会にインパクトが残せる現象は,他の「社会問題」ではあまり見られません.するべきことは個人が臓器提供の意思を明示し,身近な家族に確認するだけなのです.しかも,いざその時が来たら,自身は脳死状態であり,医学的には何も感じることも認識することもできないので,実務上の努力はいらないのです.こんなにも簡単なのに,とてつもない貢献を社会に残すことができる運動4 4(ムーブメント)がほかにあるでしょうか?
しかし,日本では移植医療を普及するというムーブメントはなかなか起きませんでした.これは日本社会の構造的な何か,つまり人々の思考パターンと行動変容へのチャネルの何かが,欧米とは決定的に違うと考えざるを得ません.この本を手にした人は,おそらく医療者か患者か,つまり何らかの形で移植医療にかかわる人でしょう.しかし,本当は一般の人に読んでもらいたいのです.なぜなら,移植医療は一般の人々にこそ直接関係するからです.あめいろぐシリーズは,基本医療者を読者対象にしてきました.しかし,移植医療は「医療を提供する人」と「医療を享受する人」の2者の関係に,その前提条件として「脳死臓器提供をする人」の第3者が必要です.つまり,移植医療においてはすべての登場人物が,脳死臓器ドナーなくしては存在することも,移植医療者と患者の関係性すら成り立たないわけです.本書には,移植医療を語るうえで,脳死臓器提供を行う可能性のあるすべての一般の人に知ってほしいことも詰め込みました.
これまでは,一般の人においても「移植医療についての情報が少なくてよくわからないから,脳死臓器提供の意思表示を保留する」という理屈が成り立ってきました.でも,そのような時代は終わらせるべき時期に差し掛かっているように思います.今この瞬間にも,移植の待機リストで脳死ドナーを待ちながらも,移植が間に合わずあの世へ旅立っていく患者はたくさんいます.つまり,日本人の1人ひとりが,同じ街に住む移植を待つ患者の命にかかわる,とても大切な意思決定をしているのに,それぞれの個人が全くその自覚がないという不思議な事態が続いています.だから,今の世代の人たちが「よくわからないから保留したい」という考えから脱却できるように,本書にて移植医療のパラダイムに関する筆者たちの実体験に基づく情報を届けたいと思います.
移植医療にかかわる医師には共通体験があります.それは「移植が末期の臓器不全に対して,圧倒的に有効な治療である」という医師としての根本にかかわる実感です.抗菌薬を使って感染症が治癒する,あるいはワクチンが普及するとその病気が激減するのと同じく,具体的に肌身に感じられる体験です.目の前で,臓器不全による死へのスパイラルを下降している患者が移植で治癒するのです.
医師をしていて,この治癒4 4の手応えを感じられるのは実際稀です.移植医療にはまさに,医師の本懐とすべき「治癒」の手応えがありありと感じられます.
この共通体験を土台に,米国の心臓移植と小児肝臓移植の専門医師が筆者として集まりました.心臓移植と小児移植の共通項は「移植の中でも,日本でほとんど行われていない移植」です.この本で目指したのは「移植医療というパラダイムシフトを選択した米国」と「しなかった日本」についての記述です.もっといえば,移植医療というイノベーションをほとんど使わない日本の医療にポッカリと空いている穴を浮かび上がらせることも意図しました.
この“穴”は虚像であり,日本で医療にかかわる人には感じにくいものだと思います.その穴が,多くの人を不幸にする落とし穴であるのか,これから埋めていくべき穴なのか,読みながら考えていただければと思います.私は,現在の日米の移植医療の差におけるこの特殊な状況を,その功罪も含めて,人文科学の叡智を集めて研究すべき時期に来ていると思います.
心臓移植を題材にしたため,5,6,9章では循環器に関する解説が多くなり,医学生や研修医にはやや専門的な記述となっているかもしれません.一般の方には第1部と第4部の総論的な部分を読んでいただければ理解しやすいと思います.
この本を読んだあとに,臓器提供意思表示カードを手にとって,一瞬だけでも頭の中で考えを巡らせて,行動に移していただければ…と心から願っています.
2023年1月吉日
シリーズ監修 浅井 章博
目次
第1部 米国の移植医療の紹介
1章 移植医療の発展と米国の現状
2章 移植というパラダイムシフト
3章 移植医療を普及させる原動力:臓器をシェアするとは?
第2部 移植医療の現場
4章 移植が起こるその日:ドナーの視点から
5章 移植が起こるその日:医師の視点から
6章 移植が起こるその日:内科医とレシピエントの道のり
7章 小児の移植現場:肝臓移植
第3部 移植のチーム医療
8章 心臓移植におけるチーム医療:医師編
9章 プライマリ・ケア医が知っておくべき移植の臨床:移植前後の管理
10章 心臓移植におけるチーム医療:医療専門職編
第4部 移植医療の未来
11章 移植がもたらす社会的副作用
12章 移植医療の評価体系
13章 移植医療の進歩と今後の課題
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書籍情報
- ISBN:9784621308004
- ページ数:160頁
- 書籍発行日:2023年3月
- 電子版発売日:2024年2月14日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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