序文

近年，画像診断の進歩は著しく，呼吸器外科領域においてもPET，MRI，3D-CTをはじめとして様々な画像が提供され，それらの画像なしでは手術や周術期管理が成り立たないほどになってきています．

考えてみると，私が医師になりたての頃（1980 年代）は，胸部画像診断といえばX 線写真フィルムをシャウカステン（Schaukasten）に貼って並べ，顔を近づけて読むというのが基本であり，実用化されたばかりのCTも複数スライス（しかも１cm 厚！）を1枚に現像したフィルムを数枚並べて読影していました．まだ胸部断層写真（前額断，矢状断）も必須として撮られており，呼吸器外科医はそれらの画像を読んで頭の中で３D 構成を行って手術に臨んでいたわけです．術後管理の画像ももっぱら胸部単純X 線でした．このような時期には，画像よりも術中所見などの方がはるかに詳細な情報が得られていました．しかし今や，次々と新しい画像診断モダリティが開発され，さらに画像の閲覧もフィルムではなくPACS（Picture Archivingand Communication Systems）が普及し，例えば肺の微小病変については高精細CTの方が触診を上回る感度であるともいえますし，立体的イメージも3D 画像をモニター画面上で容易に見ることができる時代となってきました．

このような画像進歩の中でそれぞれの診断モダリティについての解説書は数多く世に出ていますが，実際の臨床の現場でそれらをどのように駆使して，より精度の高い術前評価を手術に反映させ，適切な周術期管理を行うかについては，成書になっているものはあまりなかったのではないかと思います．実地診療の場では，放射線診断の先生が「あたかも手術所見を知っているかのような」適切なレポートを書いてくださり非常にありがたいと感じられることもあれば，レポート上には現場で知りたい情報への言及は少なく，仕方なく（？）呼吸器外科医が自ら画像診断せざるをえないということもしばしばありました．

そこで，現時点での呼吸器外科臨床に役立つ胸部画像診断のノウハウを，総論からかなりマニアックな各論まで集めて，呼吸器外科医ならびに放射線診断医双方にとって，実際の臨床現場において役立つ解説書を作りたいという趣旨で企画されたのが本書です．

総論では，胸部画像診断のエキスパートである放射線科医の先生方に基本知識を解説していただきました．各論では，呼吸器外科医が普段の臨床で注意しているポイントを解説するとともに，放射線科医からのアドバイスを適宜加えていただくようにしました．逆に呼吸器外科医が何を求めているかなどを放射線診断の先生方にも理解していただけるように，総論のところには呼吸器外科医からのコメントも加えるようにしました．さらに，トピックス的なものは「コラム」として掲載しました．また，紙面では静止画像のみですが，実際の診療の場では３D-CTやMPRなどが活用されてきていますので，QRコード読み取りにてWebサイト上で動画も供覧できるようにいたしました．

なお本書は，臨床でのノウハウを伝承するという意図で記載されており，エビデンスレベルという意味では高くないものも含まれていますが，お気づきの点があれば編者までご一報いただけると幸いです．

本書が呼吸器外科医や放射線診断医の先生方の日常診療のお役に立てば望外の喜びです．最後に，タイトなスケジュールにもかかわらず，多忙な中で執筆いただいた先生方ならびに貴重な症例の画像などをご提供いただきました先生方に心から感謝申し上げます．また，この企画の最初から様々な助言をいただき，進捗を適切にリードしていただきました学研メディカル秀潤社の谷口陽一氏なくしては，本書は世に出せなかったと思います．改めてここに謝意を表します．

令和4年2月吉日

杏林大学医学部呼吸器・甲状腺外科
教授近藤晴彦