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- Webで実践 生物学情報リテラシー
商品情報
内容
序文
ほぼ10年前にヒトゲノムの解読が完了しましたが、その後の生物ゲノム解析の勢いには目ざましいものがあります。次世代シーケンサと呼ばれる高速DNA 塩基配列読みとり装置が開発されたことで、個々人のパーソナルゲノムも現実的な時間と現実的な費用で解析できるようになり、医学応用にもう一歩で手が届きそうです。10年前には、このようなスピードで技術的な発展が起こるとは考えられませんでした。前著『できるバイオインフォマティクス』から10年が経ち、新たに『Web で実践生物学情報リテラシー』と題して、この時代に即応した本書を出版することにしました。生物のゲノム情報の基礎は変わらないので、1章(生物情報データベース)、2章(配列解析)、3章(立体構造予測)および4章(文献データベース)は前著の内容をある程度継承しています。これに対して、医薬応用に近い活性部位の話題を5、6章で、時々刻々増大していくゲノムデータについての話題を7章で紹介しました。まったく新しい話題として8章(相互作用ネットワーク、システム生物学系)では、大量の遺伝情報をお互いに関連付け、生物体内のシステムを解きほぐそうという試みを紹介しました。さらに、9章では、創薬研究を支援するインシリコスクリーニング関連ツールを紹介しました。
次世代シーケンサは、ゲノム情報から生物的意味を解読するプロセスのハードウェアに当たります。そして、それに対応するソフトウェアが完成して始めて、社会的にも意味のあるものとなります。しかし、これらのソフトウェア部分は、まだ次世代シーケンサや構造解析装置などが生産する生物情報が持つ潜在的な生物的意味の一部を抽出しているにすぎません。ゲノム情報を本当に理解するためには、さらに高度なソフトウェアを開発していかねばなりません。
生物も自然の中にあり、すべて分子でできています。確かに生物らしい分子(生体高分子)は大きく複雑です。しかし、生物が地球上で大きく進化した理由は、生物らしい分子が持つ一見複雑な配列の裏には、非常に単純な物理的側面があるという事実があるからです。これまで見かけの複雑さに隠れて、配列の物理的単純さは注目されてきませんでした。しかし、近年ハードウェアが生産するゲノムデータはあまりにも大量で、ゲノム情報解析のパラダイムシフトへの圧力は年々高まっています。この方向での残された課題と新しい情報リテラシーのあり方を、10章で紹介します。
さて、初めて生物科学のデータベースを使う人にとって、ある1 つの仕事の流れを何のナビゲーションもなく、最短の道筋で進むことは不可能です。ある程度慣れてきた人にとっても、別の流れの解析を行おうとすると同じことが起こります。それだけ生物情報は階層的で奥が深いのです。本書は生物科学の研究を志しているが、データベースの利用に関してはまったくの初心者というような人たちに対して、できるだけ親切に解説を加えることを目的として企画されました。本書の最も大事な部分はインターネットのホームページの画面で構成されています。公共のデータベースはすべてインターネットで公開され、そこでは付属のツールによって、ある程度情報抽出ができます。しかし、データの情報が膨大で、ツールが高機能であればあるほど情報抽出のためのコマンドが多く、その条件設定も複雑になります。データがどのような形をしていて、ツールのどのコマンドを使えば目的の情報にたどりつけるかを知るには、実際にホームページの画面を見て試してみることが最も簡便で、確実です。本書で生物情報の典型的な仕事で出てくるデータベースの画面を流れに沿ってたどることによって、自分のやりたい仕事が自然に覚えていただけることでしょう。そういう意味で本書は講習会に適したテキストになっています。
本書ではタイトルに「情報リテラシー」という言葉を用いました。情報リテラシーは一般には「情報を使いこなす力」というような意味ですが、生物科学の分野では二重の意味があります。生物自体が一種の情報処理機械ですので、私たち人類が誕生する以前から、生物は自分を構成する情報(ゲノム配列情報を中心とした多様な情報)を完全に使いこなし、生き、世代を重ねてきました。つまり、生物は内部に完全な情報リテラシーのシステムを持っているのです。これに対して、20 世紀後半以降、人間は生物についての多様な情報を解読・操作する技術を開発してきました。そのプロセスは、人間が生物を理解するための情報リテラシーを向上してきた歴史と言うことができます。しかし、現状を客観的にみると、後者の意味での情報リテラシーは、大量の生物情報の解析にもかかわらずまだまだ未熟です。そこで本書では、生物理解への情報リテラシーの最前線に、できるだけ多くの人々が触れられるようにし、最終的な生物理解への道を太くしたいと考えたのです。
生物情報の講習会を行ってみると、より広い範囲の人たちが受講してきて、実は生物のデータベースから利益を得ることができるのは、研究をすでに行っている人たちばかりではないということに気づきます。大学では、生物系の講義がたくさんあります。必ずしも生物科学を志す人たちだけではありませんが、レポートを書くため、あるタンパク質に関係する文献を検索することが必要になるかもしれません。また、医学部・看護学部などの学生は、ある遺伝子病について発表するために関連の情報を短時間で収集しなければならないということがあるでしょう。企業の人で、それまで生物学の知識はないが、バイオテクノロジーの部門に回ったので、すぐに遺伝情報を使えるようになりたいと講習会を受けに来ることもあります。そうした人たちの自習用としてもこの本は役立つに違いありません。
本来、生物分野のデータベースは非常に専門化した情報の集まりですから、それを利用するには高度な知識が必要だと思われがちです。しかし、少し親切なインストラクターがいれば、初心者でも使ってみること自体は意外と簡単です。生物科学の普及には、専門家にとっては親切すぎるかもしれない本書のような本が、実は最も必要とされているのだと思います。「これまでなんとなく敷居が高くて、敬遠していた生物情報のデータベースとソフトウェアツールをとにかく利用してみようという気になった」という人が少しでも現れたら、この本の意図が達成されたということになります。より多くの人たちに使っていただけることを期待しています。
本書は、1章から9章を広川がまとめ、未来に向けた解説の10章と全体の監修を美宅が行いました。ご協力いただいたすべての関係者に深く感謝いたします。
2013年7月 美宅成樹
目次
1 分子生物学データベースを利用してみよう
実習の前に
分子生物学データベースの基礎知識
分子生物学データベース
パスウェイデータベース
実習
実習1 タンパク質配列データ取得
実習2 タンパク質立体構造データ検索
実習3 遺伝子情報の検索
実習4 ゲノム種別配列の取得
参考文献および関連サイト
2 配列を比較してみよう
実習の前に
配列を比較する意味
配列を比較する方法
生物学的意味を持つ文字(アミノ酸残基)置換
相同性配列検索
多重配列アラインメント
系統樹解析
実習
実習1 相同性配列検索
実習2 多重配列アラインメント
実習3 プライマー設計
参考文献および関連サイト
3 タンパク質の立体構造を予測してみよう
実習の前に
タンパク質立体構造予測
予測構造の評価
タンパク質-タンパク質複合体予測
実習
実習1 ホモロジーモデリング法
実習2 タンパク質-タンパク質ドッキングによるタンパク質複合体予測
実習3 タンパク質折りたたみ体験
参考文献および関連サイト
4 文献データベースを活用してみよう
実習の前に
Entrez:分子生物学データ統合検索システム
実習
実習1 指定した論文の検索
実習2 Advanced機能による検索
実習3 MeSH項を利用した広域論文の検索
実習4 My NCBIによる個人設定
参考文献および関連サイト
5 配列情報からタンパク質の機能を予測してみよう
実習の前に
遺伝子オントロジー
モチーフデータベース
モチーフの表現方法
膜貫通領域の推定
シグナルペプチドの予測
細胞内局在予測
実習
実習1 モチーフ検索
実習2 シグナルペプチド予測
実習3 細胞内局在予測
実習4 膜タンパク質予測
参考文献および関連サイト
6 立体構造情報からタンパク質の機能を予測してみよう
実習の前に
タンパク質の立体構造情報と機能
立体構造モチーフ
タンパク質の折りたたみ様式
実習
実習1 活性ポケット候補部位探索
実習2 リガンド結合および活性部位予測
実習3 静電ポテンシャル解析
参考文献および関連サイト
7 ゲノムデータを閲覧してみよう
実習の前に
ゲノム地図の作成と塩基配列の決定
ゲノム配列を調べる
ゲノムデータの閲覧ツール:ゲノムブラウザ
これからのゲノム解析
実習
実習1 ゲノムプロジェクト検索
実習2 遺伝子検索
参考文献および関連サイト
8 生物情報をネットワークで眺めてみよう
実習の前に
生体ネットワークの種類と表現方法
ネットワークの解析方法:次数分布とスケールフリー性
ネットワークの解析方法:クラスター係数
実習
実習1 代謝データベース検索
実習2 化合物、遺伝子情報検索
実習3 ネットワークの可視化と編集
参考文献および関連サイト
9 創薬研究に情報科学を活用してみよう
実習の前に
LBDDとSBDD
LBDDによるインシリコスクリーニング
SBDDによるインシリコスクリーニング
実習
実習1 化合物類似性検索
実習2 タンパク質と化合物のドッキング計算
参考文献および関連サイト
10 生物情報リテラシーに残された課題
生物情報に対する研究の歩み
バイオインフォマティクスの残された課題
問題解決への仮説
仮説を裏付ける若干の証拠
参考文献および関連サイト
付録 バイオインフォマティクス関連webサイト
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書籍情報
- ISBN:9784521737720
- ページ数:200頁
- 書籍発行日:2013年8月
- 電子版発売日:2014年7月4日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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