序文

スペシャルティとして急速に発展しつつある．心身医学は精神疾患以外の疾患をもつ患者の精神医学的ケアに焦点を当てる【訳注：日本語訳での「心身医学」の用語の扱いについては第1 章4 ページの訳注を参照】．心身医学の専門家は様々な医療現場において精神症状を診断し，マネージメントし，患者が受ける医学的ケアが最適なものになるように働きかける．そして健康や病気にかかわる心理的因子の役割についての知見を広げ，その知見を病気の予防や治療に応用する．心身医学の臨床家は，総合病院の病棟診療についてコンサルトを受ける立場として，あるいは，身体疾患と精神疾患を合併した患者を治療するMPU（medical psychiatricunit）における治療者として，また入院患者と外来患者を扱う医療チームに組み込まれて協働する臨床家として働く場合があるだろう．心身医学は，複数の病気が複雑な組み合わせで生じ，複雑な相互作用が生じる領域である．この分野の臨床家は，最新の研究や診療指針に精通しておくように努力しなければならない．このような課題に取り組む上での助けとなるよう，本書は，心身医学の臨床家，教育者，研究者による実践的な指針を提供する．臨床実践において日常的に用いられる中核的概念は，本書で網羅した．

また本書は，精神医学やそれ以外の医学の専門分野における研修医や医師にとって，心身医学における重要なトピックスについての教育的な資料となるようにも作られている．まず，心身医学の歴史の章で，この分野の歴史的文脈を説明する．続いて，一般医療現場における精神科コンサルテーションのプロセスを概観し，心身医学的面接，身体診察，一次医療サービスとの協働について，その詳細について述べる．残る章では，コンサルテーション・リエゾン精神科医（CL 精神科医）がよく遭遇する疾患・病態の診断とマネージメントを扱う．すなわち，一般医療現場における精神疾患の評価と治療，意思決定能力評価など心身医学の中核となる分野，一般医学疾患を合併した患者への向精神薬の使用，身体表現性障害・せん妄・認知機能障害のマネージメント，神経疾患や他の一般医学疾患に伴う精神症状，医薬品あるいは違法薬物使用に伴う緊急合併症，そして心身医学特有のトピックス，などである．そして最後に心身医学の将来の可能性について検討する．

それぞれの章は，定型的フォーマットで構成した．また，特に重要な情報をまとめるために図表を用いた．それぞれの章の最後には，記憶すべき重要事項を，キーポイントとしてまとめた．参考文献には，文献およびその他の情報源を示した．また，取り上げた題材についての読者の理解度を確認するために，練習問題を記載した．特殊な略語は，その都度文中で定義した．EKG（心電図）のような一般的な医学用語は，本書の最後の用語集に掲載した．

このピッツバーグ・総合病院精神医学マニュアルが，読者にとって，心身医学の理解と実践を深める上で役立つことを期待したい．

Kurt D. Ackerman, MD, PhD
Andrea F. DiMartini, MD