『消化器外科学レビュー』は，我が国のトップリーダーの先生方にそれぞれの専門領域において過去1 年間の発表論文の中から特に優れたものを選んで解説していただき，それを基に今後の外科学の方向性を示していただけるという非常にありがたい書籍です．最近ではオンラインジャーナルなども増え爆発的に論文数が増える中，忙しい外科医の先生には興味はあってもすべての文献に目を通す時間がなくなっていることを痛感されていると思いますが，そのような先生方には，まず本書を一読して1 年間の重要論文の概略を理解していただき，更に興味をもたれた論文には是非原典を読んでいただくことを強くお勧めします．最新の知識を充実させておくことは，専門性を問われる現代の外科医には生涯教育として必須であり，先生方の日常臨床の一助になることは間違いないと思います．本書にはいろいろな使い方がありますが，例えば数年分揃えていただければ，各領域におけるトレンドの課題がすべて網羅され，そして一瞬のうちに理解できて出典にまで到達することができます．私は教育を提供する側として，学生や若手外科医教育のスライドを作成する資料として本書を大変重宝しております．また，若手の先生方にとっても参考文献に遡って理解することは困難でも，エッセンスはわかりやすく解説してあるので勉強になると思います．

本書の編集は跡見裕先生，炭山嘉伸先生，門田守人先生の大先輩から，現在の渡邊昌彦先生，國土典宏先生，そして私に引き継いで今年で3 年目になります．私自身，過去に分担執筆を10 年担当させていただいた経験も含め本書の発行に計13 年関わってまいりましたが，その間，外科学に関する論文の変動を強く感じております．業務報告的な後方視解析の論文は一流誌には採用されなくなり，ランダム化比較試験を中心とした前向き試験の結果が多く採用されるようになっております．そして，これらの論文の中から優れたものがEBM としてガイドラインに採用され，我々の臨床を変えてゆくという一連の流れが確立されました．一方で，外科学に関する動物実験や基礎的研究は世界的に減少傾向にあると感じております．多忙な外科医が臨床に忙殺されてリサーチマインドを失いつつあるのではないかと危惧しております．形式の確立された臨床試験だけではなくアイデア豊富な基礎研究がもっと盛んに行われるようになれば，魅力ある外科として若手の志望者も増えると思います．本書を読んで一人でも多くの先生がそのような知的好奇心が湧いて新たな研究に取り組まれることを期待したいと思います．

末筆ながら，多忙な中，本書の執筆にご協力いただいた諸先生方および本書を企画していただいた総合医学社の担当の方々に深く感謝いたします．

2012年2月

監修者を代表して
土岐 祐一郎