腹膜透析の展望と夢
私は腎臓専門医でもあるが,それ以前に内科医であり,脳出血,脳梗塞,あるいは糖尿病や動脈硬化で下肢の機能不全に陥った患者さんを多く診てきました.一時期,神奈川リハビリテーションセンターに出向していたこともありました.機能不全の回復が十分でなければ,あるいは血行再建が満足の得られる結果でなければ,下肢の切断などとなり,義肢,装具,車イスなどの機器類を用ることになるのですが,多くの患者さんが下肢切断などが決心できないばかりか,できることなら義肢,装具,車イスなどの機器類を用いないで,なんとか自分の力で移動できることを願うものです.たとえば,かなり極端な跛行や上肢を使ってまでも自分の力で移動したいと,涙ぐましいリハビリテーションの努力をされておられます.
また一方,いろいろな理由で,一時的に経口摂取が不可能となった患者さんに対して,全身状態や栄養状態をよく維持するために経静脈的栄養補給を行うことはしばしばあります.しかし高齢者や腎機能,高血圧,糖尿病などの合併症をもつ患者さんの輸液,栄養管理は思いのほか難しいものです.体重,尿量,血圧,浮腫,胸,腹水の有無,心機能,尿中Na 排泄量,血糖,血清蛋白などを勘案して綿密な輸液計画を立てるのですが,多くの場合に誤算を生じてしまいます.私は腎臓内科医ですので,少しはこの輸液管理に関しては詳しく,経験も豊富なはずなのですが,なかなか計算どおりにはいきません.水分の過剰,脱 水,電解質のアンバランス,低栄養,微量元素やビタミンの欠乏など,常に調整を繰り返さなくてはなりません.ところがそのような患者さんが経口摂取(たとえ胃瘻,腸瘻を使用しても)をはじめ,胃腸からの吸収がはじまると経静脈的栄養補給の時に悩されていた問題が一気にさほどの苦労なく良好に管理できるようになります.要するに大雑把な管理でよくなるのです.これは,腸管あるいは胃の粘膜の自然の制御機能のためであると思われます.私は胃腸の粘膜を輸液の師と仰ぎたくなるくらいです.
腹膜透析(PD)は血液透析(HD),腎移植とともに腎代替療法の一つです.それら3つの療法は決して並列ではなく,それぞれに特徴や適応の違いがあります.HD は体内の恒常性を維持するためにきわめて綿密な機械的制御を行うのに対して,PD は大変大雑把な制御しか得られないといわれておりますが,私は前述の経静脈的栄養と経口摂取の例のように,生体の一部である腹膜を使っているPD の大雑把なところがむしろ利点ではないかと思っています.残存腎機能や毎日の食事,水分の摂取量の変化にある程度対応してくれる面があるからです.毎日同じ量と同じ内容のものを摂取するということは,患者さんにとって相当な努力と苦痛が伴うものと思われます.患者さんは機械ではありません.計算づくでは思った結果が出ないこともしばしばです.
腹膜透析(PD)は血液透析(HD),腎移植とともに腎代替療法の一つです.それら3つの療法は決して並列ではなく,それぞれに特徴や適応の違いがあります.HD は体内の恒常性を維持するためにきわめて綿密な機械的制御を行うのに対して,PD は大変大雑把な制御しか得られないといわれておりますが,私は前述の経静脈的栄養と経口摂取の例のように,生体の一部である腹膜を使っているPD の大雑把なところがむしろ利点ではないかと思っています.残存腎機能や毎日の食事,水分の摂取量の変化にある程度対応してくれる面があるからです.毎日同じ量と同じ内容のものを摂取するということは,患者さんにとって相当な努力と苦痛が伴うものと思われます.患者さんは機械ではありません.計算づくでは思った結果が出ないこともしばしばです.
一方,前述の下肢の機能不全の患者さんの例からもわかるように,多くの人は機械や他人に頼らずに,できれば自分の力で生きていきたいと願っていると思います.HD は機械に頼り,腎移植は他人の腎臓や免疫抑制薬を当てにして暮らしているのです.それに対してPD,とくにCAPD では,自分の腹膜でかつ自分の操作(努力)で,自分の生命を維持していることになります.したがって,患者さんは自分の力で生きているという実感が持てるのではないかと期待しています.
PD を行うにおいて唯一装具と思われるテンコフカテーテルは私が約30 年前に日本で最初に患者さんに手術的に装着したものですが,現在まであまり進歩していません.このような装具がより腹膜炎の危険性のない,そして軽微なものになり,また透析液がさらに生体適合性のよいものとなり,腹膜機能の劣下や被囊性腹膜硬化症などの問題を解決することができれば,CAPD は単に在宅医療(透析)という枠を越えて,患者さんが自分の力で生きているという生きがいやQOL の改善にも有用な治療法として確立していく可能性があり,医療経済の面のみならず,社会的にもその価値が高まる可能性があると思っています.
細谷 龍男