はじめに
皆さんは病院で他の先生やスタッフとのコミュニケーションに自信があるでしょうか?
コミュニケーションと言っても、世間話や噂話の類いではありません。社交的かどうかという意味でもありません。ここで言うコミュニケーションとは、医師業務にかかわるやりとりのことです。つまり他診療科の先生や指導医へのコンサルテーション、医局のカンファレンスでのプレゼンテーション、そして国内外の学会の場で発表し、質疑応答や議論すること、さらには皆さんが診療中に気がついた新しい知見を論文にして世界に発表することです。そこには医療現場ならではの“お作法”があります。
私はどちらかと言えばこうしたコミュニケーションに苦手意識を持っていました。特に医師になりたての頃は、指導医の先生に教えてもらいながらもある程度の経験を積むまではどこか不器用で、たどたどしかったと記憶しています。
そんな苦手意識を持っていた私でさえ、ある程度の臨床経験を積み、他診療科の先生とスムースなコミュニケーションが取れるようになり、そしていくつもの学会発表を経験し、いくつも英語論文を発表するはじめにことができました。また、研修医を指導する立場になり、いくつかの病院で数多くの研修医を指導してきました。
本書はそんな私と私が勤務する三豊総合病院で同じく研修指導する立場の先生方とで、コミュニケーションのノウハウをまとめたものです。
前半の第1章から第4 章では、主にコミュニケーションに関する心構えとノウハウ、つまり医師になったらいや応なく経験するコンサルテーション、症例の概要を伝えるプレゼンテーション、そして国内学会で発表するために何が必要なのかを紹介しています。日常の臨床風景で遭遇しそうな状況を多数設定しており、研修医の皆さんが研修を受けるときに気をつけること、持つべき心構えを散りばめました。コンサル、プレゼン、学会発表と聞いて「難しそうだ」「うまくできるかな?」と感じました? 大丈夫! 誰でも皆、最初は初心者です。そして本書は、毎年、毎日、研修医の先生方と接し、教え教えられている立場として、現場目線で書いています。
医師としてぜひチャレンジしてほしい国際学会での発表、そして英語での論文執筆についてはどうでしょうか? そもそも経験がないばかりか、考えてみたこともないという方が多いのではないでしょうか。
でも、実は皆さん、興味がありますよね? あなたの先輩、上級医が海外の学会に出向いて英語で発表し、英語で論文をまとめて有名雑誌に掲載された、なんてこと、一度は耳にしたことがあるでしょう? そして憧れますよね。
私の場合、医師になって数年経過した頃から自ら進んで取り組みました。皆さんと同じで、憧れたからです。だから抵抗はありませんでしたし、たとえ目が回るほど多忙なときも、業務外の時間を費やしても、苦痛に感じることはありませんでした。後半の第5 章、第6 章では、皆さんが日常診療で学んだことをブラッシュアップさせることができる海外学会での発表や英語論文執筆について、具体例を交えて解説しました。当院で研修を終えた先生は、他院で診療をしながらもトップジャーナルへの論文投稿や国際学会で活躍した様子を報告してくれます。本書は皆さんも同じように活躍していくためのノウハウをお伝えできるものと信じています。
何も一気に全てできるようになる必要はありません。本書は、医師になった皆さんが経験していくであろうことから順に1つずつ解説しています。初めてのことに取り組むとき、本書を思い出してください。ここに心構えとノウハウが書いてあります。
本書が研修医、若手の先生方の日々の診療における円滑なコミュニケーションの助けになること、そしていずれ専門の分野に進んだ暁には皆さんが日々経験し、学んだ知見を全国、そして世界に向けて発信するために役立つことを願っています。
2021年1月 藤川達也