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- 炎症性腸疾患関連腸癌アトラスー小腸から大腸まで、肉眼像から迫る
商品情報
内容
多くの読者の皆さんが本アトラスを参考にして炎症性腸疾患関連癌症例の的確な診断と適正な治療を行うことにより予後が改善されることを期待する。
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序文
序 文
炎症性腸疾患(IBD)関連癌の増加は著しく,決して稀な疾患ではなくなった.そのため,日常診断で対処が必要になった.いわばその方面の知識は必須と考えるべきであろう.研究論文も増えている.最近,Gastroenterology誌にIBD関連腸癌のprognostic factorに関するsystematic review and metaanalysis 論文が掲載された(2020年).18個の因子を同定したが,その際に検索引用したIBD関連癌論文は10,000編以上あり,そこから164論文に絞って解析したという.内容もさることながら基本となる論文数の多さに驚きを禁じ得ない.40年前からIBD関連癌の研究は盛んである.殊にsurveillanceに関する研究は急速に増えている.その割には内視鏡診断の進歩はゆっくりしている.本書でも解説がある2015年に出版されたSCENIC コンセンサス以来大きな動きは少ない.内視鏡機器は増えてきたが,診断学の進歩による突破口は見えない.その理由として,本疾患が比較的稀で実例を多く経験した内視鏡医は少ないためと思われる.そこで,多くの症例を一堂に集めて系統的に供覧することは真に意義あることと思われる.
病理診断に関しても混乱がある.欧米ではRiddellの分類(1983年)が用いられ,その後も大きな変化はない.一方,わが国では厚生労働省特定疾患難治性腸管障害調査研究班(1994年)が用いられる.その比較は可能であるが英語論文には用いがたい.本論文ではほぼRiddellの論文に敬意を払うが腸管腫瘍診断学に沿った診断が展開され,腫瘍か否か判定が困難な場合dysplastic epitheliumとの表現が用いられている.また,診断基準が曖昧なdysplasia単独病変は掲載しなかった.また,本書の特徴として病理診断の丁寧さが上げられる.われわれの施設ではIBD 症例の手術例は多いが,全例切除標本を全割し数百枚の階段標本を作製している.岩下,田邉らの基本的姿勢が本書に強く反映されている.
本書の特徴は内視鏡像と病理構築像の対比にある.病変が見えにくい同定しがたい理由がつぶさに理解されるように解説を行った.本書の特徴は各症例のアトラス部であろう.UC関連癌とCD関連癌が分けて記載されている.特にCD関連癌は文献が少なく,読者には有用かもしれない.CD関連癌も診断が容易でない場合が多い.その理由として,狭窄が多く,内視鏡が到達しがたい,罹患部位が肛門周囲か回盲部に多いなどの偏りがあるためでもあるし,クローン病病変内に生ずるため敷石像などの背景炎症の影響を受けやすく,読影が簡単でない.初期病変は潰瘍の辺縁に生じ,Ⅲ型類似の形態をとるため診断は術後の検索に頼らざるを得ない.できるだけわかりやすい提示を試みたつもりである.Invisibleは本書のkeywordの一つであるが,見えないことを証明する努力も行った.ご理解をいただきたい.
本書の編集者,松本主之教授はSCENIC コンセンサスに参加した委員の一人でこの領域の第一人者である.総論と各論に参加していただいた.岩下明德教授は消化管腫瘍病理ならびに炎症性腸疾患の病理に精通している第一人者である.長年の症例集積を活かして田邉寛先生と一緒に病理総論と症例提示全体に関与していただいた.二見喜太郎教授にはCD関連癌に特化して寄稿をいただいた.わが国で独特の肛門周囲発癌に着目して多くのサーベイランスを実行してこられた.その成果とともに総論でもデータを提示していただく.久部高司准教授は,長年UC 関連癌を解析している.本書では遡及的にみたUC関連癌の発育進展について詳しく提示していただいた.2年前のサーベイランス内視鏡でinvisibleであれば検査医の責任はないが,生検しておれば別の結論であったかもしれない.最終的に進行癌で発見されたUC関連癌の場合,2年前のサーベイランスでは病変が同定される確率が高い.Interval cancerの概念を改めて議論して,早期診断のため積極的生検を取り入れるべきとの提言が可能であろう.
本書は,内視鏡サーベイランスに携わるすべての人を対象として構成された.一部の例は練達の内視鏡医でも刮目するのではないかと自負している.
2021年5月5日 寓居にて
松井敏幸
目次
第一部 炎症性腸疾患(IBD)関連癌―総論
1. 炎症性腸疾患関連癌の現状と展望/松井敏幸
2. 炎症性腸疾患における腫瘍性病変の内視鏡診断/松本主之
3. クローン病関連下部消化管癌/二見喜太郎
4. 炎症性腸疾患関連癌の臨床病理学的特徴と病理診断/岩下明德・田邉 寛
5. 炎症性腸疾患関連癌の進展・経過/久部高司
第二部 症例アトラス―潰瘍性大腸炎(UC)/久部高司・田邉 寛
●早期癌
症例1 広範囲なdysplasia を伴った早期癌(20歳台,男性,Sessile type)
症例2 術前診断で散発性癌との鑑別が困難だった早期癌(30歳台,男性,Superficial elevated type)
症例3 境界不明瞭な早期癌(60歳台,男性,Flat type)
症例4 境界明瞭なsessile type の早期癌(50歳台,女性,Sessile type)
症例5 境界不明瞭なflat type の早期癌(50歳台,女性,Superficial elevated type)
症例6 腫瘍との認識が困難だった早期癌(60歳台,男性,Flat type)
症例7 インジゴカルミン色素散布で視認できた早期癌(40歳台,男性,Flat type)
症例8 ESD で治療した表面隆起型早期癌(70歳台,女性,Superficial elevated type)
症例9 表面構造が保たれた粘膜下層深部浸潤癌(40歳台,男性,Sessile type)
●進行癌
症例10 術前の深達度診断が困難な進行癌(70歳台,男性,Sessile type)
症例11 周囲にdysplasia を伴った2型進行癌(40歳台,男性,2型)
症例12 術前の深達度診断が困難な漿膜まで浸潤した進行癌(30歳台,男性,Flat type)
症例13 境界不明瞭な進行癌(30歳台,男性,Superficial elevated type)
症例14 炎症性ポリープとして経過観察されていた進行癌(50歳台,男性,1型)
症例15 周囲に平坦な早期癌を伴った進行癌(30歳台,女性,5型)
症例16 周囲に平坦な早期癌を伴った進行癌(50歳台,女性,5型)
症例17 特異な形態を示す進行癌(30歳台,男性,複合型)
症例18 狭窄部に認めた進行癌(30歳台,男性,狭窄型)
症例19 下部直腸の進行癌(60歳台,男性,5型)
症例20 直腸の進行癌(50歳台,男性,Sessile type)
症例21 伸展が良好であった進行癌(30歳台,男性,Superficial elevated type)
第三部 症例アトラス―クローン病(CD)/二見喜太郎・田邉 寛
症例1 経肛門的内視鏡サーベイランスで診断した回腸早期癌(40歳台,男性,SL型)
症例2 腸閉塞の術中に診断した多発回腸癌(30歳台,女性,SL型)
症例3 多発狭窄の術後病理所見で診断した4 重複回腸癌(40歳台,女性,SL型)
症例4 側方発育型腫瘍様の形態を呈した回腸の進行癌(40歳台,女性,Superficial elevated type)
症例5 左鎖骨上窩リンパ節転移から診断した回腸癌(40歳台,女性,S型)
症例6 小腸狭窄に対する術前大腸内視鏡検査で診断したS 状結腸早期癌(40歳台,男性,SL型)
症例7 腹痛により3 年ぶりの内視鏡で診断した上行結腸癌(50歳台,女性,L型)
症例8 スキルス型横行結腸癌術中確診例(20歳台,男性,SL型)
症例9 複数回の生検で診断に至った上部直腸癌(30歳台,男性,SL型)
症例10 外来生検で診断した肛門周囲広汎に浸潤した下部直腸肛門管癌(30歳台,女性,SL型)
症例11 肛門痛,粘液便を契機に麻酔下肛門検索で診断した下部直腸肛門管癌(40歳台,男性,SL型)
症例12 肛門管の異型上皮検出から20 カ月後に反転内視鏡で診断した下部直腸肛門管癌(30歳台,女性,SL型)
症例13 15年間の空置を経て粘液排出を契機に診断した下部直腸肛門管癌(50歳台,男性,SL型)
症例14 吻合部拡張目的の内視鏡時に診断した下部直腸肛門管癌(50歳台,男性,SL型)
症例15 肛門皮垂切除後の難治創から異型上皮検出後内視鏡で診断した肛門管癌(50歳台,女性,SL型)
症例16 裂肛診断から約7 年,進展した肛門潰瘍の生検で診断した肛門管癌(40歳台,女性,SL型)
症例17 肛門周囲瘻孔のサーベイランス生検で診断した痔瘻癌(60歳台,女性,SL型)
症例18 発赤調ポリープ病変周囲に異型上皮を合併した肛門管粘膜内癌(40歳台,男性,S型)
症例19 肛門痛の増強とCEA の上昇から麻酔下経肛門的生検で診断した肛門管癌(50歳台,女性,SL型)
症例20 持続性の肛門痛発症から2 カ月で診断した肛門管癌(40歳台,女性,SL型)
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書籍情報
- ISBN:9784908083648
- ページ数:127頁
- 書籍発行日:2021年6月
- 電子版発売日:2021年6月26日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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