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- 加藤 正弘
- 脳が言葉を取り戻すとき 失語症のカルテから
商品情報
内容
言葉を失ったとき、脳ではどのようなことが起きているのか。また、脳が言葉を取り戻すとはどういうことなのか。
本書は「脳が言葉を失うとき」「脳が言葉を取り戻すとき〜ある失語症者の長い旅路」「失語症者と共に生きる」の三部で構成される。
人が脳の損傷により言葉を失ったときに直面する問題から、言語訓練の経過、その後の社会生活までの様子を、多数症例を通し丁寧に解説。
失語症者とその周囲の人々に対し、言語聴覚士はどう向き合えばよいのか。脳の仕組み、失語症の障害メカニズムのわかりやすい説明とともに、
長年多くの失語症者のリハビリテーションに携わる筆者らが、失語症者の脳と言葉、脳と心の深い問題に迫る。
言語聴覚士必携の、待望の復刻版。
※本製品はPCでの閲覧も可能です。
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序文
復刻版出版に添えて
本著「脳が言葉を取り戻すとき」が日本放送出版協会から出版されたのは、一九九八年の秋であった。本著は、脳に興味を持つ一般の方、脳科学や失語症の臨床に携わる方、失語症者の家族の方々に広く読んでいただき、この本を読んで言語聴覚士の道へ進んだという若い方も少なからずおられた。この本の執筆中に三〇年来の念願であった「言語聴覚士法」が成立したのだが、当時、世の中には「失語症者を社会全体で支えなければ」という機運が極めて高かったように思われる。そのころ啓蒙的なテレビ放送企画も数多く放映されたと記臆している。
それから長い年月が経過し、失語症に関する研究は進み教科書も数多く出版された。一方「医療保険制度」や「介護保険制度」の中で、言語治療の実施の仕方がさまざまな制約をもつようになり、失語症者のリハビリテーションは発症から短い期間で打ち切られる臨床現場も多くなってきて、じっくりと失語症者とその家族に臨床家が向き合う社会的な機運はともすれば薄れがちとなってきた。失語症の臨床現場が「無機的」になったという声さえささやかれる昨今である。
この社会的な風潮を受けたためか、本著は出版社の都合により二〇一三年春に販売停止となった。
この十数年間に、新たに失語症になられた患者さんの方々とそのご家族、新しく養成校をへて言語聴覚士になられた若い方々、その他失語症者のリハビリテーションに関わりをもつ各種のスタッフの方々は年々数を増している。これら失語症者とその家族の方々はどのような苦しみに陥るのか、それをいかに言語聴覚士をはじめとする周囲の人々は支えて行けばいいのか、また言語機能を回復するということの可能性やその道筋はどのようなものであるのかについて、多くのこれらの方々に、もう一度深く学んでいただきたいと筆者らは強く望んでいる。医接現場に多くの制約がある中でも、少しでも失語症者とその家族を深く支えたいが所以である。
「失語症理論を学ぶ前に、失語症者の心を、まず深く理解していただきたい」という筆者らの希望を、新興医学出版社の林峰子社長、服部秀夫相談役がお聞きとどけ下さり、編集部岡崎真子さんの御努力のもと、この度の復刻版の出版を実現してくださったことは、本当に有難く、心から感謝申し上げたい。
復刻版の出版に際しては、内容的な変更は基本的には行わないこととした。ただし、検査法(主として「標準失語症検査」)に用いている語彙を実際の検査とは異なるものにするべく、少しの変更を行った。また文献リストで各種検査法の著者が「日本失語症学会」となっている部分があるが、これは現在「日本高次脳機能障害学会」と変更されていることなどご了解いただきたい。
「脳が言葉を取り戻すとき」に記した、多くの症例のあり様を多くの方々にお読みいただき、人間洞察を深めて、臨床現場が暖かく包括的なものとなるよう願ってやまない。
佐野洋子 加藤正弘
まえがき
私たちは日々の暮らしで、家族や友人あるいは仕事で出会う人々と言葉を使ってコミュニケーションをはかる。また本を読んだり、考えごとをしたり、知識を学ぶときにも言葉を使用する。美しいものを見た感動もまた、言葉で表現し人に伝える。文化の多くも言葉を通じて継承されたり伝播されてきた。この言葉を司る機能は脳に存在する。しかし、言葉を理解したり書いたり話したりするメカニズムは、いわばブラックボックスであり、容易には窺い知ることができない。そして何気なく用いている言葉が、人の存在にどのような関わりを持っているのか、日常意識することは多くない。
しかし、ある日突熱、悩に損傷を負い、人が言葉の機龍を失ったとき、これらの問題が一挙に露になってくる。言葉を失ったとき、その人と周囲にどのようなことが起きるのであろうか。言葉を失ったことから浮かび上がってくる開題の大きさに、失語症者のリハビリテーションに携わっている筆者らは当惑しながらも、逆にそこから多くのことを学ぶ。脳が言葉を失い、そして再び脳が言葉を取り戻していく様を書き綴ることを通じて、人聞にとって言葉の持つ意味合い、言葉を失ってもなお再び立ち上がっていく人聞の姿、そして脳が回復していく経過について、あらためて考えなおしてみたいというのが、本書を書く動機であった。
失語症を起こす原因の約九割は、脳血管障害である。脳血管障害の発生頻度は人口の高齢化に比例して増加し、また若年齢層での発症も目立ってきている。一方、交通事故などによる脳の外傷によっても多数の失語症者が発生しているし、脳外科を中心とする救命医療が格段に進歩したことによって、一命を取り留めながらも失語症、記憶障害、認知障害などの高次大脳機能障害による後遺症に苦しむ人々の数が増えてきている。
平成九年度の厚生省の発表によれば、全国の失語症者の数は、三三万人にものぼるという。現在は失語症者のためのリハビリテーション体制が不備であり、失語症という診断さえ受けられていない人が数多く存在することを合わせて考えるならば、実際にはさらに多数の失語症者が存在しているのかもしれない。そしてこれらの人々が、社会の中でどのような障害であるのかすら理解されずに悩んでおられることが危慎される。
本書では、筆者たちが勤務してきた伊豆韮山温泉病院ならびに江戸川病院で言語訓練を受けられた失語症者の長期間にわたる臨床記録をもとに、そもそも言葉とは向か、失語症とは何かということの解説から始まり、脳が言葉を取り戻す長い経過、そして周囲の人々が失語症者とどのように関わり合っていけばよいのかなどを書き綴ってみたい。症状や患者さんの身に起こった出来事などの記載は、現実のカルテから書き起こしたものである。ただし、患者さんのプライバシーに関わる部分はすぺて変えてある。また、本書に登場する失語症検査場面の記載に関しては、検査の本来の使用目的を考慮し、一部言葉を変えてある。
ここで、本書の中で再三登場することになる言語障害のリハピリテーションに携わる職種の名称について説明しておきたい。日本では、言語訓練をおこなう職業は「言語治療士」「言語療法土」、あるいは英米の同種の職種名であるスピーチ・セラピスト(Speech Therapist)の頭文字を取って「ST」などと呼ばれ、これまで正式な名称はなかった。ところが、折しも本書を執筆中の平成一〇年九月に、三〇年来の懸案であった「言語聴覚士法」が制定され、言語訓練に携わる職種が社会の中で正式に位置付けられるようになった。そして、当該業務にあたる者の正式名称は「言語聴覚士」と決定した。ただし、本書では便宜的に、言語聴覚土を簡単にSTと記載することをお断りする。
本書は三部構成になっているが、必ずしも順を追って読み進める必要はない。現在、身近に失語症の方がおり、少しでも早く失語症を理解したいという読者には、第一部第二章および第二部の失語症者の回復過程の記録から読むことをお勧めする。脳の仕組みに興味をお持ちの読者や、これから失語症のリハビリテーションの分野に進もうと考えている諸氏には、最初から読んでいただければ幸いである。
執筆にあたっては、大脳および言語に関する医学的側面についての記載および全体の監修は加藤正弘が、失語症の障害のメカニズムや臨床例に関する記述は同僚の小嶋知幸氏の協力のもとに佐野洋子が主として担当した。
言うまでもないが、筆者らに対して失語症者の何たるかを身をもって教えてくださった多くの失語症者の方々の存在がなかったら、本書はとうてい成り立ちえなかったと思う。ここに深謝の意を表したい。
失語症という障害を一人でも多くの人に知っていただくだけでなく、失語症という障害を通して初めて見えてくる、言葉と人聞の奥深い関わり、脳が言葉を取り戻すときの不思議さと素晴らしさなどについても汲み取っていただければ幸いである。
佐野洋子
目次
第一部 脳が言葉を失うとき
第一章 脳が失うもの
第二章 失語症を捉えなおす
1.「聞く」~人の話が聞き取れない
2.「読む」~文字がわからない
3.「話す」~言いたい言葉が出ない
4.「書く」~文字が書けない
第三章 脳は言葉を取り戻せるのか
第二部 脳が言葉を取り戻すとき~ある失語症者の長い旅路
第四章 脳は言葉をどのように取り戻すのか
第五章 病院から外の世界へ
第六章 社会復帰に向けて
第三部 失語症者と共に生きる
第七章 失語症者と社会の関わり
1.家族の人生
2.社会と関わる失語症者
3.趣味に救われる失語症者
4.仲間のために
5.言葉のバリアフリー社会を目指して
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書籍情報
- ISBN:9784880021805
- ページ数:288頁
- 書籍発行日:2014年6月
- 電子版発売日:2021年10月6日
- 判:B6判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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