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- 麻酔 2021年11月号 投稿論文掲載号
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序文
産科麻酔の発展のためのジョイントシンポジウム
無痛(麻酔)分娩は,健康である妊婦ならびに児のみならず合併症のある妊婦を対象とした麻酔診療行為であり,安全性に十分配慮した責任体制で行うことが求められる(2018年,日本麻酔科学会「日本麻酔科学会の考える望ましい無痛分娩のあり方」)。
その一方で,「無痛分娩の安全な提供体制の構築に関する提言」(2018年,厚生労働省)には,お産を担当する医師がその患者の無痛(麻酔)分娩の麻酔管理をこれからも兼務することが記された。無痛分娩の半数以上が診療所で行われている日本(2017年度,日本産婦人科医会「分娩に関する調査」)では,麻酔関連の事故が起こった場合には患者だけでなく医療者も深刻な問題に直面する。
この複雑な社会情勢と深刻なマンパワー不足の中で,妥協のない無痛(麻酔)分娩の医療安全と教育制度に焦点を当て,日本の3団体,すなわち日本産科麻酔学会(JSOAP),日本周産期麻酔科学会(JAPA),無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)と,米国産科麻酔学会(SOAP)による『産科麻酔の発展のためのジョイントシンポジウム Advancing Obstetric Anesthesia in Japanand Beyond Joint Symposium』を開催した(2021年5月22日‒23日)1)。米国側大会長はSOAPプレジデントでコロンビア大学産科麻酔科学教授のRuth Landau-Cahana先生,日本側大会長は筆者,大会事務局は順天堂大学浦安病院准教授岡田尚子先生が担当した。会議はweb形式をとり,アジア,ヨーロッパ,アフリカ,北アメリカ,南アメリカの世界5大陸から各日90名以上が参加し,自国時間の昼夜を問わず熱い討議を行った。
会議の目的は,北アメリカと日本における分娩の現状と,それぞれの国で将来に向かって起こっている変化を共有し,妊婦が安心して分娩できる仕組みの構築について議論し,相互理解を深めることと定めた。
初日は日米の分娩,産褥に関連する合併症罹患率と死亡率についてのデータ提示と安全への取り組み,世界保健機関(WHO)‒世界麻酔科学会連合(WFSA)より安全な麻酔に関する国際的な基準が解説され,日米の産科麻酔に携わる麻酔科医と産科医が無痛(麻酔)分娩の最良の診療のかたちを検討した。2日目は米国麻酔専門医基準とその先の産科麻酔科フェローシップの教育内容,SOAPの提唱するCenter of Excellence(産科麻酔担当麻酔科医が24時間常駐することなど,数多くの施設基準を満たす認証制度)についての概要と,日本で認証を受けている順天堂大学と国立成育医療研究センターの2施設の発表を通し,国内および国際的な基準について施策を議論し,会議は皆様のご協力のもと盛会のうちに幕を閉じた。
参加者の心に宿った安全意識の高まりと責任感は,会議の枠を超え大きな波として躍動し始めている。
2000年のJAMAに掲載された日本の産科医からの報告では,日本の妊産婦のpreventable deaths(予防できた死)の一因として,1名の医師による分娩と麻酔の兼務の実態が指摘されている2)。以降も数多くの無痛分娩による悲劇を背負う日本。歴史を繰り返してはならないことを心に誓い,麻酔の安全を求め増え続ける患者からの無痛(麻酔)分娩へのニーズに向き合う中で,一筋であるが確かな光として見えているのが,日本から数多く参加した若手麻酔科医らの存在だ。
今後こうした有志が力を合わせ,わが国の“産科麻酔”というAIにはとうてい入り込めない手作りの麻酔診療部門で大輪の花を咲かせるであろうことを,今,確信している。
東京女子医科大学講座主任・教授
長坂 安子
1) https://www.soap.org/japanese-symposium-2021-translate
2) Nagaya K, Fetters MD, Ishikawa M, Kubo T, Koyanagi T, Saito Y, et al. Causes of maternal mortality in Japan. JAMA 2000;283:2661‒7.
目次
巻頭言
産科麻酔の発展のためのジョイントシンポジウム (長坂安子)
講座
麻酔科医のための一般化線形混合モデル概論generalized linear mixed-effects model(GLMM) (志賀俊哉ほか)
統計ノート-23 差の信頼区間(1) (浅井 隆)
症例対照研究
高齢者の大腿骨転子部骨折手術における抗血栓薬内服継続と術後合併症の検討 (大友 純ほか)
術中アセトアミノフェン投与が腹腔鏡下下部消化管手術後のシバリング発生に与える影響の検討 (吉﨑真依ほか)
症例集積研究
大腿骨近位部骨折患者の術前心臓リスク評価 (植木正明ほか)
前腕手術において術式による術後鎮痛薬使用回数の比較 (河内 力ほか)
症例報告
横紋筋融解症の既往を有する障害者の全身麻酔経験―ケタミン塩酸塩およびレミフェンタニルを用いた全静脈麻酔― (林 恵美ほか)
非解剖学的バイパス術後に高乳酸血症と高CPK血症を来した幼児非典型的大動脈縮窄症の経験 (岩井英隆ほか)
アーノルド・キアリ奇形Ⅰ型に脊髄空洞症を合併した妊婦の帝王切開術において全身麻酔を行った1症例 (高橋和成ほか)
先天性両側反回神経麻痺を合併したネイルパテラ症候群患者における生体腎移植の麻酔経験 (高田奈央ほか)
先天性モルガニー孔ヘルニア根治術後に広範な脳梗塞を合併した新生児の1症例 (新井千晶ほか)
重症慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者における子宮全摘術の麻酔管理 (伊藤芳彰ほか)
栄養障害型先天性表皮水疱症を有する成人患者の開腹手術における麻酔管理 (権藤栄蔵ほか)
易出血性を示し,止血に難渋した後天性血友病Aの1症例 (綿谷有紗ほか)
メチルフェニデートを内服している成人ADHD患者の麻酔経験 (川端広憲ほか)
紹介
覚醒下開頭術麻酔管理の現況―全国アンケート調査― (溝田敏幸ほか)
ハロタン肝炎は,存在しなかった―危険因子探索のpitfallに陥った世界初の大規模臨床研究― (溝部俊樹)
妊婦における携帯型フィブリノゲン測定装置の信頼性の研究 (岡原祥子ほか)
スマートカフ:自動カフ圧コントローラ (角田尚之ほか)
蘇生の歴史:56.呼吸機能の解明(7):Blaise Pascal による気圧の変化の確認 (浅井 隆)
外国文献紹介
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書籍情報
- ISBN:9784014007011
- ページ数:131頁
- 書籍発行日:2021年11月
- 電子版発売日:2021年11月10日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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