序文

「こんなはずじゃなかった！」と手術中に焦ったことはありませんか？　「取ってみたら癌ではありませんでした」という経験はありませんか？　術前の画像診断の重要性はみな認識しています。泌尿器科医なら誰しも，誰よりうまく画像を読影したい，的確な病変の評価をしたい，と願っていると思います。泌尿器科に限らず，臨床現場での画像診断の技術進歩は目覚ましく，常に新しいmodalityが登場しています。

泌尿器外科では最近画像診断についての特集がなかったので，ここ数年の進歩についてレビューしたいと思い，この企画をまとめました。ただ，すでに日常診療に深く浸透しているものもありますので，今回は，いまさら聞けないような基礎的なことから解説いただき，最先端，将来像まで述べていただこうと思います。

まず，最初の3編は上部尿路に関するものです。

「腎腫瘍の画像診断」は東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座の沖元先生にお願いしました。腎癌取扱い規約第5版（2020）に準拠して，よく見る組織型から頻度の少ないものまで，その鑑別診断も含めて詳しく解説いただいています。

「腎盂尿管癌のUp date（画像による癌の病期診断）」は昭和大学医学部放射線医学講座の宗近先生にお願いしました。CT（CT urography含む），MRIについて概説の後，T（局所進展），N（リンパ節転移），M（遠隔転移）について，画像診断の最新の情報を解説いただいています。

「高精度3Dプリンターの臨床応用，ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術シミュレーション」は名古屋市立大学大学院医学研究科腎・泌尿器科学分野の岡田先生にお願いいたしました。ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術（RAPN）での術前の3Dプリンターを用いた取り組みについて紹介いただきました。とても有用で，明日からの臨床に活かせる内容と思います。

次の2編は膀胱癌の話題です。「5-ALAを用いた膀胱癌の術中診断」は高知大学医学部泌尿器科学講座の井上先生にお願いしました。5-ALAを用いたTUR-Btについて基礎的な話から現状について，これまでの蓄積されたエビデンスなど詳しく解説いただいています。

「AI搭載・次世代MRIを用いた膀胱癌深達度診断法（VI-RADS）の前向き検証研究」は杏林大学医学部泌尿器科の田口先生にお願いしました。VI-RADSも臨床に少しずつ浸透してきております。VI-RADSのこれまでの検証研究をその要点を含めてわかりやすく表にまとめていただくとともに，AI搭載・次世代MRIの成果について紹介いただきました。

最後の3編は前立腺癌についてです。

「前立腺癌の診断・治療に対するmultiparametric MRIの役割」は京都府立医科大学泌尿器科の井上先生にお願いしました。PI-RADSについて解説いただくとともに，PI-RADSに基づいた前立腺癌の局所治療という最新の取り組みについて紹介いただきました。

「骨シンチグラフィによる前立腺癌の骨転移診断」は金沢大学大学院医薬保健学総合研究科泌尿器集学的治療学の溝上先生にお願いしました。BONENAVIの臨床応用について，最新の話題を解説いただきました。

最後は「前立腺癌の新規画像診断法としての全身MRI：PSMA-PET/CTと比較した位置付けと使用法」は東京医科歯科大学大学院腎泌尿器外科学の吉田先生にお願いしました。近年，転移性前立腺癌に対し局所療法，site-directed therapyの有用性が報告されるようになりました。従来の前立腺癌治療では考えられなかったような方法です。この背景には微小な転移を見出す画像診断技術，全身MRI（DWIBS）やPSMA-PET/CTの臨床応用があります。本稿ではこれらの新規診断法のこれからの展開について詳しく解説いただいております。

本特集ではいずれの論文でも普段行っている「生の」工夫や秘訣が，詳しくわかりやすく解説されています。

この企画が明日からの日常診療に少しでも立てれば幸いです。

東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学分野
久米　春喜