特集にあたって

小倉　裕司

敗血症は発症頻度・死亡率ともに依然高く，科学的なエビデンスに基づいた診療ガイドラインの意義は極めて大きい。日本集中治療医学会と日本救急医学会は，合同で日本版敗血症診療ガイドライン（J-SSCG）2020 を作成し，2021 年2 月25 日に正式出版した。J-SSCG2020 では，新たに注目すべき4 領域（Patient-and Family-Centered Care，Sepsis treatment system など）が加わり，計22領域，118 の重要臨床課題（CQ）を扱った国内最大級のガイドラインとなった。

それに伴い，両学会員の若手を多く含む総勢226 名のガイドライン作成チームが結成された。とくに，J-SSCG2020 においてJ-SSCG2016 から大きく進化した点として，組織面では①多職種のワーキンググループメンバーおよび患者経験者が作成に加わったこと，②両学会公募のシステマティックレビューメンバーの協力を得たこと，があげられる。とくに①では，医師以外に看護師9名，理学療法士4 名，臨床工学技士2 名，薬剤師2 名の多職種メンバーと患者経験者2 名（うち1名は看護師）に参画いただき，計8 領域のガイドライン策定に従事していただいた。実際に多職種メンバーと患者経験者が加わることで討議のバランスが取りやすくなり，多面的な考察によりガイドラインの内容の深みも増した。例えば，新規領域として“Patient-and Family-Centered Care”に注目すると，いずれのCQ のガイドライン策定にも多職種の視点が生き生きと反映されている。敗血症診療は，本来多職種が共通認識を持ってチームで臨むものであり，J-SSCG2020 作成における多職種メンバーの貢献は診療ガイドラインに新たな輝きをもたらした。

各班から厳選されたCQ は，疾病・診断・治療に関する一般的な知見を問うBackground Question（BQ）と診療上の意思決定にかかわる特定の知見を問うForeground Question（FQ）に分けられ，さらにFQ は常識的なGPS（good practicestatement），GRADE（Grades of Recommendation，Assessment，Development andEvaluation）システムによるGraded statement，エビデンスが不十分でGRADE システムが適応できないExpert Consensus の3 つに分類された。結果，79 個のGRADE による推奨，5 個のGPSに加え，18 個のExpert Consensus，27 個のBQ解説などが，特別委員会委員による合意形成を経て示された。とくに，Expert Consensus やBQ解説においては，多職種メンバーの豊富な臨床経験や生きた知識が効果的に反映された。さらに，新たな試みとして，CQ ごとに診療フローなど時間軸に沿った視覚的情報を取り入れたことも多職種で診療をお互いにチェックできる点で注目される。

本特集では，J-SSCG2020 のなかでも“多職種管理”として注目すべきトピックスを取り上げ，1）呼吸管理，2）栄養療法，3）痛み・不穏・せん妄の管理，4）PICS とICU-AW，5）PatientandFamily-Centered Care，6）Sepsis treatmentsystem，―各領域の班長（特別委員会委員）から推奨に至る経緯などを詳しく解説いただいた。

現時点のエビデンスと今後の課題を整理し，多職種がかかわる敗血症診療の現場において活用していただければ幸いである。

大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター（〒565-0871 吹田市山田丘2-15）
日本版敗血症診療ガイドライン2020 特別委員会委員長
ICU とCCU 45（10）：609，2021