序文

前立腺癌治療における放射線医学・核医学の進歩は目覚ましい。手術偏重に陥りがちな泌尿器科医は，前立腺癌に対する放射線治療の現状を正しく認識し，近未来の方向性も考慮した上で個々の患者の治療選択を提言することが，個別化医療の公平化の観点から求められる。しかし多くの泌尿器科医は放射線医学について体系的に学ぶ機会に恵まれておらず，断片的な知識の寄せ集めで放射線科に相談し，最終的には放射線科医の判断で治療方法が決められていくのが現状ではないだろうか。前立腺癌治療における放射線医学・核医学の全体像を把握し，個々の治療方法の原理，特性を正しく理解することで泌尿器科医と放射線科医の距離を縮めることを狙いとしたのが，今回の企画である。

はじめに浜松医科大学の中村和正先生に前立腺癌放射線治療のOverviewをしていただき，虎の門病院の小塚拓洋先生には最新のオーダーメイド放射線治療について解説いただいた。この2論文を読んでいただくと放射線治療に対する理解が格段に深まることと思われる。今もなお患者様から根強い人気のある小線源治療については，Trimodalityによるハイリスク癌への適応拡大について第一人者である斉藤史郎先生にご執筆いただいた。治療後の排尿・勃起障害を減少させる効果を期待して超低リスク癌に試みられるFocal therapyについては東京医科歯科大学の松岡陽先生に執筆いただいた。患者様から相談を受ける機会も少なくはない重粒子線・陽子線治療については群馬大学重粒子線医学研究センターの松井博先生に解説いただいた。患者様への説明に役立つ記事であると思われる。骨転移治療に関してオリゴ骨転移に対する局所放射線療法とRa-223による全身療法について北里大学の田畑健一先生に解説いただいている。ここまで読んでくると前立腺癌は放射線と薬物療法で十分対処できるのではないかと疑問を抱くかもしれない。ロボット前立腺全摘と放射線治療，この2つをどのように使い分けていくべきなのか。これは個々の患者様のニーズに合った最善の治療を選択する上で重要なポイントとなる。この重大な命題に関しては，赤倉功一郎先生に解説いただいた。読んでいただくとお分かりいただけると思うが，患者様に適切な個別医療を提供する上で非常に大事な内容となっている。最後に2021年の国際学会での最大のトピックスとなったPSMA-PET theranosticsについて福島県立医科大学先端臨床研究センターの織内昇先生にご執筆いただいた。本邦ではまだ未承認であるが保険適用となれば前立腺癌治療のパラダイムシフトを起こす可能性のある治療法である。

本特集を読んでいただき前立腺癌放射線治療に対する理解が深まり，明日からの診療にプラスとなり個々の患者様に最善の治療が提供されることになれば企画者としては望外の喜びである。最後にご執筆いただいた先生方に最大級の感謝を示したい。

東京警察病院泌尿器科
松島　常