序文

2020年2月に始まった世界的コロナ禍で，医療界はいまだ大激震に見舞われています。その影響で泌尿器科でも外来患者は約2 ～3割減少し，手術件数や入院患者数も大きく後退した病院や診療所が多いと思います。そして一旦収束したかにみえたのもつかの間，2021年夏にはわが国は第5波に見舞われました。その後また落ち着いて，第109回日本泌尿器科学会総会は幸いにもこの間隙を縫って，無事現地開催することができました。流石，大家大会長はもっています。しかし，2022年が明けるとともに，オミクロン株による感染が急速に拡大しつつあります。この原稿を書いている1月16日の時点で，東京都は4,172名の新規感染者を記録しています。

昨年は空床補償などのいわゆるコロナ関連補助金で黒字化した病院も多いようですが，いつまでもこれらの補償が続くとは考えられず，今後の診療報酬改定では，財務省は「1入院包括化」などの大改革を計画しているとの情報も聞こえてきます。このような大変厳しい医療経営環境においては，私たち泌尿器科医も安穏としてはいられません。医療保険制度と診療報酬の仕組みをよく理解して，防御を固めつつ攻めの医療経営を展開する必要があります。

さて人生とは早いもので，私ももう還暦を過ぎました。ご縁あって44歳で日大に赴任しました。自分の担当した項でも書きましたが，日大は伝統的に保険審査員などの役割が先輩から回ってくることが多いです。そんなわけで保険診療に関係した仕事を少しずつ経験するようになりました。また2017年に日本泌尿器科学会保険委員長に就任したのも，前任の斎藤忠則先生が日大泌尿器科の同門だから引継ぎがスムースだろうと，当時の藤澤正人理事長（現神戸大学学長）が考えたからと推察します。そうすると，さらに厚労省，PMDA，日本医師会から保険診療に関連したいくつかの仕事を依頼されるようになりました。また大学病院長になって，経営の視点から全診療科の保険診療をみる機会を得ました。

このように偶々携わることになった泌尿器科保険診療業務ですが，その全貌は巨大で複雑です。そこで学会保険委員長を退任するのを節目として，そのエッセンスを紹介する本特集「入門！　泌尿器科保険診療」を企画しました。手元に届いた各項の原稿を読んでみましたが，どのテーマも大変分かり易く解説されていて，私も今更ながら勉強になりました。読者の皆様もこれらを通読することで，疑問の多い泌尿器科保険診療の概要を理解され，日常の診療に役立てていただけるかと思います。ただし私の担当した項は盲人が象を触るがごとく，これまでの経験で朧げに感じた印象を書き留めた代物ですので，軽く眺めていただければ幸いです。

最後にこの場を借りて，お忙しいなか執筆をご快諾いただいた先生方に深謝します。

日本大学医学部泌尿器科学系泌尿器科学分野
髙橋　悟