これ一冊でパーフェクト！！ 進行性胚細胞腫瘍

進行性胚細胞腫瘍は，多くは未来のある若い患者で発症し，適切な診療を行うか否かが患者の生命予後およびQOL を大きく左右します。私たち医療者は患者とshared decision making で診療を進めていきますが，そのためには正確な病態把握，適切な治療選択と施行が必須です。特に本疾患は，不十分な知識と技量で中途半端な治療を行うことは厳に慎むべきで，やるのであれば全力で行うべき疾患です。

今号は，進行性胚細胞腫診療の決定版を作ることを企図し，これから胚細胞腫瘍診療に関わる若い先生方のみならずエキスパートの先生方にも有益な情報を示すことを目的としました。胚細胞腫瘍は，泌尿器科悪性腫瘍でEvidence-based Medicine（EBM）が最も確立していますが，ここしばらく明らかな進歩がないようにも思われています。しかしながら本腫瘍の診療は着実に進んでいます。本邦の第一人者の先生方が力を入れて原稿を書いてくださりました。全てご一読されることを強くお勧めいたします。一冊読んで有益な情報が得られなかったと感じる先生は世の中にほとんどいないのではないでしょうか。逆に，現時点では「これ一冊でパーフェクト！！」（「泌

尿器外科」の特別号でよく使用される題名です）と思います。恐縮ですが，個人的なことを書かせていただきます。私は1988 年（昭和63 年）に東京医科歯科大学を卒業し，当時の通例ですぐに泌尿器科医になり，同年，自分が担当していた患者について生まれて初めて学会で症例報告させていただきました。題名は「Bleomycin，Etoposide，Cis-Platin の三者併用化学療法（BEP）が奏効した後腹膜性腺外杯細胞腫瘍の1 例」で，これのどこが新しいかいぶかしく思う若い先生がいるかもしれません。当時BEP は新しいレジメンで多くは救済化学療法に使用されていましたが，それを一次化学療法に導入したら治療成績が上がるのではないかという症例報告でした。当時東京医科歯科大学の腫瘍領域をリードされていた福井巌先生のお考えによるもので，私は背景もよく理解せずに発表しました。5-HT3 拮抗薬もG-CSF製剤もない時代の話で隔世の感があります。

今回，著書の先生方には象徴的症例をできるだけ加えていただきました。これを見ると各先生方のEBM を超えた執念を感じ大変勉強になります。実は，私の上記患者も初期治療のBEP および残存後腹膜リンパ節郭清後，残念ながら再発しました。幸い，福井先生らの集学的救済治療が奏効し，発症後33 年経った今も年に1 回元気に私の外来を受診いただいております。私の最も古い患者で，胚細胞腫瘍について最も多くを教えてくれました。彼に会うたびに“BeyondEBM”を目指し一生懸命勉強して執念をもって治療していかなければならないとフレッシュな気持ちが戻ります。

東京医科歯科大学大学院腎泌尿器外科学教室
藤井　靖久