序文

泌尿器科領域の手術においても，年を追うごとに低侵襲化が進んでいます。尿路内視鏡手術に始まり，腹腔鏡手術，ミニマム創手術，単項式手術，そしてロボット支援手術へと目覚ましい発展を遂げてきている現状です。そのような流れの中でも，開創手術として今後も受け継がれていくべき手術がいくつも存在しています。本特集ではそのような手術の中からピックアップして，標準的手技，患者の状態に応じた術式の選択，手術のコツや工夫など，それぞれの手術を得意とする先生にご執筆いただき，解説していただきました。

今回取り上げた手術は，①周囲との癒着や疾患の広がりのために開創手術が必要となる術式として，膿腎症に対する被膜下腎摘除術，下大静脈腫瘍塞栓切除を伴う根治的腎摘除術，精巣腫瘍に対する後腹膜リンパ節郭清術。②体表の手術であり開創手術が基本であるものとして，尿道狭窄に対する尿道形成術。③手術によって生じた合併症に対する回復手術として開創して行う，膀胱腟瘻修復術，人工尿道括約筋植込手術，前立腺全摘除後の尿道直腸瘻閉鎖術になります。

膿腎症では腎摘をしないと全身状態の改善が得られない患者に遭遇することがありますが，周囲との強固な癒着のために，より安全な術式として被膜下切除が考慮されます。腎癌では，偶発癌として発見されてロボット支援腎部分切除術を受ける患者がいる一方で，それと対極をなす下大静脈塞栓を有する腎癌患者も少なからず来院して来ます。ICU 管理のもと血管外科や心臓外科と共同手術を行う必要のある手術です。開腹での後腹膜リンパ節郭清術は，大血管を取り囲むようなBulky 症例には避けられない手術であり，血管からの剥離操作を主体とした，慎重な手術が求められます。尿道狭窄はいろいろな原因で発症しますが，確実な修復として開創での尿道形成術が推奨されます。膀胱腟瘻は，婦人科手術，特に，産科合併症として今後いつでも生じる可能性があるので，泌尿器科的対応を知っておく必要があります。ロボット支援手術では前立腺全摘除術が最も普及していますが，症例数が多くなればなるほど一定の頻度で生ずる合併症も増加してきます。重症尿失禁に対する人工尿道括約筋植込手術については，標準術式の詳細を手術時の注意点や細かな工夫を含めて記載していただきました。直腸尿道瘻は，術者が最も起こしたくない合併症の一つで，ロボット支援手術で視野が良い状態であっても頻度は少ないながらも発生しますので，状況に応じた適切な対応方法を知っておくことが必要です。

開創手術が減少しており，状況に応じた適切な剥離操作などこれまで培われてきた技術を若手医師に伝えることが難しくなってきています。本書を読んでそれぞれの著者が述べている言葉から，開創手術に対する考えや極意を読み取っていただけましたら幸いです。

東北大学大学院医学系研究科泌尿器科学分野
伊藤　明宏