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- 麻酔 2023年5月号【特集】麻酔の安全性を高める薬剤、機器、技術、組織改善の歴史と展望
商品情報
内容
麻酔の歴史は、麻酔薬による呼吸循環抑制、副作用に対する改善の歴史ともいえる。本特集では、麻酔の安全性を高めためのさまざまなアプローチを、歴史を振り返って整理するとともに、麻酔の安全性向上の観点から今後の目指すべき展望について各領域の専門家にまとめていただいた。
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序文
巻頭言
継続的革新のために
わが国で新型コロナウイルス(COVID-19)感染者が確認されてから3年が過ぎたが,変異株による感染が続き,社会活動の制限は医療現場や研究活動に多大な影響を与え続けている。施設の所在地や規模によって受けている影響はさまざまであるが,私の勤務する病院でも家族の訪問が厳しく制限されており,孤独に治療を続けている患者を見ることは遺憾に堪えない。麻酔科医の立場では,医療従事者と患者の感染リスクをなくしながら,手術麻酔を維持したり重症感染症の管理をしたりとこれまで以上に個人の負担やタスクシフトの課題が増えることとなった。しかし,COVID-19は人と人との交わりを制限したが,一方でリモート会議や学会参加が増加したことで,これまで力を発揮することが難しかった人へ可能性を広げたことは大きな革新であったといえる。
麻酔科専門医の目標として,呼吸器・循環器をはじめとした生理学を熟知したうえで,手術のような侵襲時においても恒常性を維持する技術を有する全身管理のスペシャリストであることが挙げられている。手術室や集中治療室を中心に,この目的を達するためにさまざまな活動がなされているわけであるが,麻酔科医一人で完結することが一人前の証しのように感じる。しかし最高の手術を実現するために,あるいは緊急を要する場面で,術者や看護師をはじめさまざまな人の力を結集するリーダーシップを発揮することができなければ,やはり一人前ではない。手術中の全身管理以外でも周術期管理チーム,緩和ケアチームなどではチーム医療での介入が良好な結果を生むことがガイドラインに盛り込まれている。
優れたリーダーシップとは,組織の種類や状況に応じて変わるはずだが,心理学者のダニエル・ゴーマンによれば,優れたマネージャー達に共通するのは,「心の知能指数」(emotional intelligencequotient:EQ)が高いという点であったという。職場におけるEQとは,自己認識,自己統制,モチベーション,共感,ソーシャルスキルからなり,言い換えるならば,自分自身と自分の置かれた状況を常に顧みながら,自分の感情をコントロールして,仕事への情熱を持ちつつ,チームメンバーの気持ちを理解して良好な関係を構築できる能力といえる。EQは,遺伝的な要素が大きいといわれるが,年齢を重ねることで高まることや学習によって習得できるという。リーダーシップ向上のためには,さまざまな理論や教育プログラムがあるのであろうが,EQという側面から見ると,学習のためには本人の変わろうという気持ちと周囲の協力が必要とされている。
麻酔科医は,術中の急激な変化に直面しても,パニックに陥ることなく,必要な情報収集を遅延なく行いながら即座に治療するという,まさにリーダーシップ学習そのもののような訓練を日常的に行っているようにも捉えられないだろうか。さまざまなチーム医療に参加することで,チームメンバーの意見をしっかり受け止めて,メンバー同士の不満を解決していくことは,共感とソーシャルスキルそのものである。あとは高いモチベーションをいかに維持するかであるが,それは昇進,報酬などの外的動機だけではなく,われわれの仕事がいかに患者や組織そして社会全体に貢献しているのか,いかに誇りある仕事であるか,そのような達成感や満足感を得られるような環境を作ることであろう。
わが国のCOVID-19対策として,感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同じ“5類”に引き下げる可能性が見えてきたことから,今後コミュニケーションの場が再び広がることが期待される。しかし,戦争や感染症に加えて,働き方改革などに代表される個人の価値観の変化は続いている。先行きが不透明である状況のもとで,麻酔科医を取り巻く技術・知識の絶え間ない革新を続けていくためには,仕事の技術や知識の向上は当然必要であるが,われわれのリーダーシップ能力の向上という側面への考察が重要である。
(鳥取大学教授 大槻 明広)
目次
巻頭言
継続的革新のために (大槻明広)
特集
麻酔の安全性を高める薬物,機器,技術,組織改善の歴史と展望
緒言とまとめ:『麻酔』創刊号に見る麻酔草創期の麻酔安全性 (磯野史朗)
麻酔医療の安全性向上の歴史:麻酔関連薬物進歩の貢献と限界 (稲田英一)
麻酔医療の安全性向上の歴史:循環管理方法進歩の貢献と限界 (﨑村正太郎ほか)
麻酔医療の安全性向上の歴史:医療機器進歩の貢献と限界―呼吸モニタリングを中心に― (鈴木利保ほか)
麻酔医療の安全性向上の歴史:学会,研究会の貢献と限界 (武田純三)
麻酔医療の安全性向上の歴史:診療ガイドラインの貢献と限界 (両角幸平ほか)
麻酔医療におけるシミュレーション教育の課題と今後の展望 (駒澤伸泰)
総説
妊娠高血圧症候群と脊髄幹鎮痛による産痛緩和 (渡辺 楓ほか)
症例報告
重症大動脈弁狭窄症合併大腿骨骨折の周術期管理計画を麻酔科が中心となって立案した1症例 (越智美咲ほか)
聴神経腫瘍手術中に三叉神経心臓反射による心静止を来した1症例 (岩田雅人ほか)
デクスメデトミジンを用いた筋強直性ジストロフィーを有する患者の乳房切除術の麻酔経験 (熊谷彩音ほか)
妊娠中に急速増大した小脳血管芽腫に対し帝王切開術施行後頭蓋内腫瘍摘出術を行ったフォンヒッペル・リンダウ病の1症例 (坂倉庸介ほか)
外国文献紹介
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書籍情報
- ISBN:9784014007205
- ページ数:115頁
- 書籍発行日:2023年5月
- 電子版発売日:2023年5月18日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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