序文

また，慢性腎不全になると，本来は腎臓から排泄されるべきリン（P）が排泄できなくなり，高P 血症をきたす。高P 血症は，P とCa のバランスを保持しようとしてFibroblast growth factor（FGF）23 の産生亢進に伴い腎臓で活性型ビタミンD3 の産生が低下して腸管からのCa の吸収が低下することによって低Ca 血症をきたすとともに，直接的に副甲状腺に作用して，PTH の産生・分泌を促進する。これらのビタミンD の欠乏，高P 血症，低Ca 血症がいずれも副甲状腺を刺激して，副甲状腺過形成となり二次性副甲状腺機能亢進症（Secondary hyperparathyroidism：SHPT）を引き起こす。副甲状腺からの過剰なPTH の分泌は，高回転型骨病変（線維性骨炎）の原因となるだけでなく，ミネラル代謝異常症により血管を含む全身の石灰化を介して生命予後を左右することが明らかになり，慢性腎臓病に伴うミネラル代謝異常症（CKD－MBD）と呼ばれている。「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン 2012 年度版」によると，血清P，Ca，PTH の順にコントロールを優先させることが基本になっている。特にSHPT に対しては，以前より副甲状腺摘出術（Parathyroidectomy：PTx）や経皮的エタノール注入療法（Percutaneous ethanol injection therapy：PEIT）など外科的治療を含む副甲状腺インターベンションが盛んに行われていた。しかし，活性型ビタミンD3 製剤に加えて，シナカルセト塩酸塩，エボカルセト，エテルカルセト，ウパカルセトなどのCa 受容体作動薬（総称：カルシミメティクス製剤）の登場により内科的管理の幅は大きく拡がり，手術症例数は激減し近年はその適応が限られるようになった。それでも，薬物療法抵抗性あるいは有害事象や服薬困難により手術療法が必要となる症例が存在する。大きな腺腫，intact PTH 500pg/mL 以上など症例によっては予後の面でPTx の優位性が認められている。

薬物療法でSHPT 抑制を目的とした場合，活性型ビタミンD3 製剤とCa 受容体作動薬のどちらを優先すべきかまだ決まっていない。さらに低Ca 血症予防に両剤の併用による有用性に関して議論がされている。また，現行のPTH 値の管理目標の妥当性についての再検証の必要性が問われている。本特集では，多彩な臓器障害や体重減少を引き起こすSHPT をいかにコントロールするのか，SHPT 治療の介入時期は何時なのかを主題に，SHPT に対する治療の変遷を振り返り，外科的治療としてのPTx の位置づけを再考する。併せて，慢性腎不全におけるミネラルバランスの管理の重要性とCKD-MBD の病態に関する最新知見を学ぶ。

本稿で知る内容はSHPT 治療に関する最新情報が満載であり，透析医療の分野に限らず，広く内分泌・ミネラル代謝領域および生命予後に密接に関連するもので，透析業務に携わる関係者のみならず，周辺領域の知識の修得を目指す若手泌尿器科医には是非一読を勧めたい。なお，テーマの吟味，執筆者の指名に関しては，本稿の執筆者の1 人である旧知の角田隆俊先生にご指導いただいた。

健筆をふるっていただいた執筆者諸兄と合わせて感謝申し上げます。

大和つきみの腎クリニック
勝岡　洋治