はじめに

本書の初版は日本版救急蘇生ガイドライン2005の内容を踏まえ，2007年2月に出版された．医師，看護師，救急救命士，診療放射線技師，臨床検査技師，理学療法士，臨床工学技士などの医療者を対象とし，わかりやすく，廉価で，質の高い教材とすることを目標とし，写真やイラスト，図，動画を多用し「見てわかる」視覚に訴えた教材として世に出した．その後，5年に1回改訂されるJRC蘇生ガイドライン（日本蘇生協議会），救急蘇生法の指針（日本救急医療財団心肺蘇生法委員会）に準拠するように，本書もその内容を改訂してきた．

他書にない本書の特徴は，マニアックな内容ではなかろうか？詳しい解説は，しばしば難解なものになってしまう．しかし，本書ではあえて「詳しく，かつ(しかし)わかりやすい」を目指した．そして，この欲張ったコンセプトに加え，蘇生ガイドラインの根幹を鮮明にお伝えすることを意識した．そして，ガイドラインや指針で書けない「コツ」を盛り込んだ「秘伝の指南書」としている．

「安い，判りやすい，詳しい」をモットーとしているが，とくに価格を抑える点には苦労している．著者には原則として，ボランティアでお願いしている．動画撮影やナレーションにはさすがにプロを使っているが，動画編集はすべて監修者の手作業で行って，コストを限界まで詰めている．動画の派手さや，格好良さでは，どうしてもライバルに勝てないが，内容の質は世界一と自負している．価格を抑えるために，監修者も個人的な利益は全く得ていない．書籍の印税による「儲け」は，すべて特定非営利活動法人 大阪ライフサポート協会の救命講習を支えるための資金に充てている．まさに「霞を食べて生きている」が，初版143ページ，第2版157ページ，第3版196ページと増え続け，本第4版は258ページに達してしまった．残念ながら，これは，価格の値上げとして，読者の皆様の負担となってはね返ってしまうこと，発刊までお時間を頂いていることをお詫び申し上げたい．

本書籍は，何らかのコースを受講する際のテキストとしては義務づけてられていないため，黙っていても売れるものではない．読者のみなさんに「お金を出しても読みたい，見たい」と思っていただけるような「作品」に仕上げなければ，書籍として生き残ることはできない．にもかかわらず本書が初版から好調に売れ行きを伸ばし，姉妹書ALSと合わせて約6万5千部が世に出て今回も改訂を重ねることができたのは，ひとえに読者の皆様から高い評価をいだたき，愛していただけたからこそと自負している．この点，心から謝辞を申し上げたい．

どうか，救急蘇生教育を心から愛する人間達が作り上げた本書の「コダワリ」の部分をたっぷりとご堪能いただきたい．この書籍には，大きな社会的責任もあることを肝に銘じつつ，全精力をこの書籍改訂に注ぎ込み，ようやくここに刊行の日を迎える運びとなった．本書が，医療に携わる方に広く愛読され，わが国の救急蘇生の発展に寄与し，真の意味での救命率が向上することを深く切望してやまない．

最後に，本書発刊にあたり，執筆，映像作成にご協力いただいた皆様，深く御礼を申し上げたい．とくに，（株）Gakkenメディカル出版事業部には，ワガママとも思えるいろいろなこだわりに満ちた注文を聞いていただき，本当に感謝している．

令和4年12月　執筆者・動画作成者を代表して

特定非営利活動法人大阪ライフサポート協会
監修　小林正直