皮膚科の臨床 2024年4月号 66巻4号 特集 真菌症 【電子版】

  • ページ数 : 140頁
  • 書籍発行日 : 2024年4月
  • 電子版発売日 : 2024年4月17日
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商品情報

内容

真菌症

今月の特集は「真菌症」です。抗炎症外用薬で改善しないときに鑑別が重要になる疾患のひとつで,皮膚科医の実力が試される領域といえるかもしれません。豊富な写真とともに貴重な症例報告をお届けします。エッセイ『憧鉄雑感』などの人気連載も好評掲載中!


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序文

巻頭言

皮膚科を30年以上して思うのは,病名が多く,病名が病態を必ずしも示していないということです。20年以上前に専門医試験を受験するため,教科書を読んでさまざまな病名を覚えたはずですが,最近はさっぱり診断能力も落ちてきたように感じています。諸先輩方は,不断の努力にて知識を維持されているようで,大変尊敬していますが,元来,先攻逃げ切りの性格の自分は,なんとか楽にその場(診療)を乗り切りたいとばかり願っています。10年くらい皮膚科をした時に,尊敬する内科の副院長先生から,皮膚科は病名が多くて大変ですね,でも治療は大体ステロイドだから(簡単ですよね),と言われたことがあります。病名より病態で治療できれば,もう少し簡単になるかも,でも保険診療ではそれも叶わないなと思っておりました。楽をしたいというモチベーションが,自動車をはじめさまざまなものの発明に繋がったのかもしれないと思えば,それは悪いことではないかもしれないと日々の行動を言い訳しております。

昔,物理で学んだ「熱力学の法則」では第一法則はエネルギー保存の法則なので,覚える病名と忘れる病名がすでに平衡に達したのではと思ってみたりします。私の脳みその閉鎖系では1 つ病名を覚えて維持するエネルギーのためには,1 つ病名を忘れないといけない状態のようで無理に覚えようとすると,今度は第二法則のエントロピー増大の法則に従って,覚えたことが乱雑になっていくのではと感じています。この「熱力学の法則」は2 世紀前にサディ・カルノーにより提唱されて以来,覆ることのない自然の定理であり,かの相対性理論で光速より早い粒子はなく,光速に近づけば近づくほどエネルギーが必要となることの証明にも用いられており,物理のみならず,さまざまな化学的な事象や生物学的な事象にも応用できるポテンシャルをもっているようです。エントロピーは熱を温度で割ったもので,状態量です。またエントロピーは山の高さのように,通る道に関係なく定まり過程を問わないことが特徴です。ギブズエネルギーはエントロピーから導かれ,化学的な事象はギブズエネルギーの変化が負であれば実現可能な変化,つまりその方向に反応が進むということを示せるため大変重要です。生物学的な事象もこのギブズエネルギーの変化を捉えることができれば,どうなるかを予想できるのではないかと夢想しております。

翻って皮膚科での問題,例えばかゆみをエントロピーと置き換えてみると,どのような人でも,どのような薬を使っていても示せる状態量としての「かゆみ」が定義でき,ギブズエネルギーの変化をみて,どちらに向ければかゆみが低くなるかがわかるのでは,向かわす方向にはどのようなエネルギー,エンタルピー(お薬)が良いのかがわかればいいなと思っております。そのような考え方が,流動的な人の病気の本質に近づくことができるのではと夢想しております。

さらに最近は「情報熱力学」という新しい分野があり,これにより「マクスウェルのデーモンのパラドックス」が解決したとのことであるので,第二法則に抗う力を得られ,夢の永久機関に近いものができるかもしれません。

日頃考えている問題を違う視点から考え直すことがイノベーションとなるのなら,科学と医学がともに違う視点を提示することにより,発展してより良い未来となるのではと願い望んで夢想したことをこちらに述べました。しかしながら,最終的に熱力学の法則が示すところは「熱的死」であるので,それまでの間せいぜい夢想しておこうかと思います。

追伸:題字を気合いを入れて書いたところ,点が多くなりすぎました。もしかして,ここに示したお話はそのような熱力学かもしれません。


金子 栄
Sakae KANEKO,益田赤十字病院皮膚科,部長

目次

特集 真菌症

Nannizzia gypseaによる体部白癬の1例 赤木 竜也

家族内感染による発症が疑われたTrichophyton tonsuransによるケルスス禿瘡の1例 飯島 茂子

Microsporum canisによる小児ケルスス禿瘡重症例−広範囲の脱毛と顔面に白癬疹を伴った1例− 吉田 雅絵

診断に時間を要した慢性皮膚粘膜カンジダ症の1例 吉江 祐香

分子生物学的解析により原因菌をFonsecaea monophoraと同定した黒色分芽菌症の1例 星野 優

分子生物学的手法で同定したFonsecaea monophoraによる黒色分芽菌症の1例 三浦 真理子

手背に生じたExophiala jeanselmeiによる皮下膿瘍の高齢男性例 前田 学

頸部に単発性結節を呈した続発性皮膚アスペルギルス症の1例 加倉井 真主

Clinicolor

未治療のHIV患者に生じたエムポックスの1例 齋藤 麗子

巻頭言

熱力学と皮膚科 金子 栄

臨床研究

北海道十勝地区の一診療所における最近7年間(2016〜2022年)のTrichophyton verrucosumによる白癬の疫学的調査 高橋 英俊

Ackermanの『診断病理学の実践哲学』を読む 

第25回 斎田 俊明

憧鉄雑感

第145回 お安い御用! 安部 正敏

症例

複数の皮弁で再建した背部放射線皮膚潰瘍の1例 石合 真徳

尿路上皮癌に対してペムブロリズマブ投与後に生じた中毒性表皮壊死症の1例 横田 菜穂

粘膜疹を伴ったアリルイソプロピルアセチル尿素による多発性固定薬疹の1例 吉田 舞

潰瘍性大腸炎を合併したIgA天疱瘡の1例 齋藤 暢胤

免疫学的検討により水疱性類天疱瘡と診断した紅皮症の1例 道下 可奈子

COVID-19ワクチン(BNT162b2)を契機に発症したと考えられる急性汎発性発疹性膿疱症の1例 吉村 智子

刺青レーザー除去後に発症した全身性扁平苔癬 平 遥

無疹部の皮膚生検で全身性アミロイドーシスと診断し得た1例  永野 知佳

歯性感染症を伴った肉芽腫性口唇炎の1例 矢尾板 優

ニボルマブ投与中に発症した扁平苔癬様角化症 安島 さやか

エリブリン単独療法が転移巣に奏効した下肢Stewart-Treves症候群の1例 小高 愛莉奈

局所再発した悪性末梢神経鞘腫瘍の1例 宏洲 あさひ

LIPH遺伝子変異を認めた先天性縮毛症/乏毛症の兄妹例 岡野 真理

未治療のHIV患者に生じたエムポックスの1例 齋藤 麗子

救命できたVibrio vulnificus敗血症、壊死性筋膜炎の1例 羽田野 詩乃

左膝に生じた菌腫型原発性皮膚ノカルジア症の1例 澤井 希望

ドキシサイクリンを含めた多剤併用療法と局所温熱療法が奏効した皮膚Mycobacterium marinum感染症の1例 宮原 華子

MiniReport

骨髄炎を伴った足趾壊疽性膿皮症の1例 竹田 恵子

全身性エリテマトーデスに合併した両側下腿のDystrophic Calcinosis Cutisの1例 加倉井 真主

右顔面頬部に発症したIgG4関連皮膚疾患の1例 高橋 英俊

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書籍情報

  • ISBN:9784003406604
  • ページ数:140頁
  • 書籍発行日:2024年4月
  • 電子版発売日:2024年4月17日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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