胆と膵 2024年2月号(Vol.45 No.2)【特集】膵癌基礎研究の最前線 RELOADED

  • ページ数 : 104頁
  • 電子版発売日 : 2024年2月22日
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内容

【特集】膵癌基礎研究の最前線 RELOADED

膵発癌マウスモデルの開発と臨床的意義/膵癌におけるクロマチン制御因子 Brg1の役割/Humanizedマウスを用いた膵癌 PDXモデルの作製と膵癌微小環境の解析 ほか


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序文

序文:膵癌基礎研究の最前線RELOADED


膵癌は,もっとも予後の悪い固形癌であり,過去半世紀以上にわたって,膵癌治療成績改善への努力が続けられてきた。化学療法などの発達により,膵癌患者の生存期間はある程度延長されたが,その死亡率は依然として高く,10年間以上無再発生存し治癒に至る症例はまれである。術前化学療法の導入などにより,切除症例の予後は改善傾向にあるが,まだまだ十分とは言えないのが実情である。根本的な治療成績の改善には,従来の細胞障害性抗癌剤などだけではなく,免疫チェックポイントをはじめ,さまざまな遺伝子をターゲットとしたゲノム医療を応用し,これまでとは異なったアプローチを模索しなければならない。そのような新規治療法の開発には,膵癌の発生・進展・浸潤・転移のメカニズムを基礎研究により解明し,その結果を基に治療戦略を構築することが重要である。

我が国では,1970年代に小塚らが,非乳頭状や乳頭状の形状で一部では異形を伴う膵管内の過形成病変を病理学的に解析してきた歴史がある。1990年代には,これらの病変がpancreatic intraepithelial neoplasia(PanIN)と欧米の研究者によって命名され,PanINにおける遺伝子異常の解析から,KRAS,CDKN2A,TP53,SMAD4などの遺伝子変異が段階的に蓄積し,膵癌へと進展していくことが明らかにされた。そして,マウスにこれらの遺伝子異常を選択的に導入した膵癌モデルが作成されたが,当初はマウス膵癌モデルが直接的に臨床に役立つことはなかった。しかし,最近の研究では,癌関連線維芽細胞などで構成される癌微小環境が免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬の作用に与える影響について検討する際にマウスモデルを活用するなど,臨床への応用が試みられている。また, 患者由来膵癌切除組織片を移植したpatient‒derived xenograft(PDX)モデルは,膵癌の臨床病態解明や抗癌剤感受性評価に活用されるようになってきた。さらには,新たな創薬をめざして,ヒト膵癌と同様の遺伝子変異を導入したショウジョウバエのモデルも作成されている。膵癌細胞増殖に関与する細胞内シグナル伝達や浸潤転移の分子メカニズムの解明も進みつつある。さまざまな疾患との関連性が話題となっている腸内微生物叢についても,膵癌や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)との関連についての研究が進み,dysbiosisと言われる腸内微生物叢の乱れが膵癌の発生や進展に関連があることが示されるようになってきた。

以上のように,さまざまな膵癌モデルの開発,膵癌微小環境解析の進歩,腸内微生物と膵癌の関連性の解析などにより,基礎的な研究を臨床応用し,膵癌の治療に役立てようとする戦略が策定されるようになった。すなわち,これまで知的好奇心を主な原動力としていた基礎研究が,実用的な膵癌治療へと結びつける橋渡し研究をめざした新しいステージに入ってきたとも言えるであろう。そこで,膵癌基礎研究の最近の進歩について,膵癌撲滅への弾丸を再装填し,最前線の研究が根本的な治療成績改善というターゲットを撃ち抜くことを期待して,「膵癌基礎研究の最前線RELOADED」というタイトルで,特集を組むことにした。これらの研究が,膵癌治療成績の根本的な改善という21世紀に残された課題の解決へとつながっていくことを期待したい。


高折 恭一
長浜市病院事業管理者

目次

特集 膵癌基礎研究の最前線 RELOADED 企画:高折 恭一

序文:膵癌基礎研究の最前線 RELOADED

高折 恭一

膵発癌マウスモデルの開発と臨床的意義

伊地知秀明

膵癌におけるクロマチン制御因子 Brg1の役割

福田 晃久ほか

Humanizedマウスを用いた膵癌 PDXモデルの作製と膵癌微小環境の解析

岩本 千佳ほか

膵組織再生および細胞老化から膵発癌メカニズムの解明に迫る

古山賢一郎ほか

臓器選択的ハイドロダイナミック遺伝子導入法によるラット膵癌モデルの作製

柴田 理ほか

膵癌の遺伝子型を模倣したモデルショウジョウバエの活用による膵癌創薬研究の加速

関谷 翔ほか

膵癌におけるレチノイン酸レセプターγを介したシグナルの機能

山川 康平ほか

Regnase-1による骨髄由来抑制細胞を介した膵癌進展機構

岡部 純弥ほか

膵癌における膵星細胞の発現とその役割

池永 寛子ほか

膵癌間質における酸化ストレス応答の役割

濱田 晋ほか

C5-C5aR1/2 axis活性が膵癌微小環境と腫瘍免疫に与える影響

江藤亮大郎ほか

癌幹細胞マーカーCXCR4に着目した膵癌に対する新規分子標的治療薬の開発

松尾 洋一ほか

トピックス:なぜ膵癌は免疫チェックポイント阻害薬が効かないのか?~その機序と克服をめざした膵癌間質研究~

飯田 忠ほか

腸内微生物叢と膵癌の関連性と病態解明

三長 孝輔ほか

腸内細菌改変が膵癌微小環境に与える効果~最近のアップデート~

吉村 知紘ほか

膵管内乳頭粘液性腫瘍の腫瘍内細菌叢の病的意義

保坂 優斗ほか

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書籍情報

  • ISBN:9784019104502
  • ページ数:104頁
  • 電子版発売日:2024年2月22日
  • 判:A4判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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