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シリーズ生命倫理学 第18巻 医療事故と医療人権侵害

池田 典昭 加藤 良夫 (編)

丸善出版

  • ISBN : 9784621084953
  • ページ数 : 306頁
  • 書籍発行日 : 2012年7月
  • 電子版発売日 : 2018年6月22日
  • 判 : A5判
  • 種別 : eBook版 → 詳細はこちら
販売価格 (ダウンロード販売)
¥6,380 (税込)
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商品情報

医療には患者の疾病を治して苦痛を取り除き、患者を幸福にするプラスの面がある反面、人体実験や医療過誤、薬害等によって患者を傷つけ、患者を不幸にするマイナス面が存在する。我が国における医療人権侵害の背景には「人々を不幸にする構図」が存在している。したがってこれらの事態を防ごうとすれば医師のモラルや狭い意味での医療倫理にとどまらず、バイオエシックスの考え方およびその基本的な価値を踏まえて英知を結集して新しい社会的な仕組みを形作っていくほかはない。本巻では、マイナス面を具体的事例によって詳述するとともに、医療における事故と人権侵害について、各論者が医療・医学分野の倫理の枠にとどまらない議論を展開する。

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■ 序文

緒言

最近の医学教育では,医学・医療分野における倫理には大きく分けて医学研究の倫理と医療行為の倫理があるとの考え方が一般的である.

医学研究の倫理とは医学の進歩,発展のために行われる様々な実験,研究に関わるもので,古くは非人道的人体実験が非倫理的な研究であるとして厳しく非難された.現在では1964 年に出されその後何度も改められたヘルシンキ宣言を基本的な指針とし,また,厚生労働省から各種の行政指針も出されそれらに沿って各機関に倫理委員会が設置されて個々の実験,研究について詳しく審査されている.そのため医学研究の倫理に関する医学・医療分野での議論は一応落ちついたように見える.

一方,医療行為の倫理とは,最先端医療,終末期医療,生殖補助医療等の倫理判断が求められる医療行為に関するもので,医学・医療分野では生命倫理という言葉もこのくくりの中で一緒に論じられているように感じられる.しかし私自身は医療行為の倫理と生命倫理は別のものと捉えている.そもそも医師の医療行為に対する倫理感を一般的な倫理感より重要視する考え方に同意できないのである.医療行為はそのほとんど全てが本来は不法行為であり,医療行為として医師が行うのでなければ刑法上罰せられる行為である.そのような行為を日常患者に対して行う医師は当然のことながら高い倫理感が必要ではあるが,それは社会人が職業人として持つ倫理感と何ら変わるところはなく,当然のものである.すなわち職業人として医療行為を行う医師としての職業的倫理感は医師となる前にすでに形成されているべきもので,医療行為を行うために医師に倫理感が必要なのではなく,医師という職業人として当然必要な倫理感を持っている者だけが医師になるべきで,そうでない者は医師となる資格はなく,また,医師になってはいけないと考えるからである.

これに対して,最近広く用いられている生命倫理という言葉は人の命そのものに対する倫理であると考えている.すなわち,医学・医療分野での2 つの倫理とは別物あるいはそれらを超えたものと考えられ,あらゆる職業,年齢の者が等しく議論でき,また,すべきものである.医学・医療分野を中心とした議論ではどうしても医療行為の倫理的な適否に焦点が当てられがちだが,適否を超えた命に関する議論こそ重要である.事実,本巻『医療事故と医療人権侵害』の執筆者の大部分が医師ではなく,その内容は医療・医学分野の倫理をはるかに超えて議論が展開されている.日々研究,教育,診療に従事している医師の方々にもぜひ一読していただき生命倫理とは何かを考えるきっかけにしていただければ幸いである.


第18巻編集委員 池田 典昭


私がバイオエシックスという言葉に初めて出会ったのは,木村利人先生の講演をお聞きした時であったと思う.1980 年代前半に木村利人先生は,カメラマンの故岡村昭彦さんと一緒に看護職の方々を対象にして名古屋など各地で講演をされていた.当時木村先生はベトナム戦争でアメリカが使用した枯葉剤による環境破壊ならびに人々の生命・健康に対する深刻な被害の実情を踏まえ,科学の発達と人間の尊厳・人々の幸福との関係について熱く語っておられた.また,木村先生はご自身がアメリカで外科手術を受けた体験も交えて,医療の場における患者の人権とりわけ「知る権利」や「自己決定権」の大切さを説得的に語っておられた.

私は,当時,バイオエシックスというものが,すべての学問領域を統合する超学際的なものであって,かけがえのない地球環境のことや人道的な価値をその根底において成り立っているものであり,しかもその担い手は自立した主体的な一人ひとりの市民であるということを学んだように思っている.

「生命倫理」という言葉は「バイオエシックス」と全く同じなのかどうかはよく分からないが(生命倫理といえば遺伝子操作等に伴う医師の倫理ないし医療倫理問題と狭く解する考え方もありうるかもしれないが),私は「生命倫理」も本質的には「バイオエシックス」と変らないと理解している.

木村先生の勧めでバイオエシックスに関する国際会議にもツアーを組んで3回ほど参加した.それらの国際会議では,「エイズと貧困」,「精神医療」,「限られた医療資源をどのように用いるべきか」といったテーマと並んで「医療過誤」も独立のセッションのテーマになっていた.診療能力が低くモラル的にも問題のある医師のことを「腐ったりんご」と称して,「誰が腐ったりんごをつまみ出すのか」という問題提起がされるなど,医師同士のピア・レビューの難しさ等が語られていた.

このような体験を踏まえて考えてみれば,生命倫理学の体系書の中に『医療事故と医療人権侵害』というテーマの巻が独立して存在することは,当然のことである.

すなわち,医療には,患者の疾病を治し,患者を幸福にするプラスの面がある反面,人体実験や医療過誤,薬害等によって患者を傷つけ,患者を不幸にするマイナス面が存在する.科学技術の進歩にともなって,新しい医療機器や薬剤あるいは手術方法等が開発され,やがて日常診療の中に急速に普及していく.そして従前には治療困難と考えられていた疾患に対してもチャレンジが重ねられ,良い効果が期待できるようになるものの,時には患者の身体に侵襲を及ぼす危険性の高い治療法も行われるようになった.こうした医療技術の開発,普及のプロセスでは,医師の好奇心や使命感などの要因からインフォームド・コンセントを中心とする患者の人権がとかく軽視される事態も想定されるし,企業の利潤追求が優先されて薬害や公害が発生する事態も想定される.これらの事態を防ごうとすれば,医師のモラルや狭い意味での医療倫理にとどまらず,前述したバイオエシックスの考え方ないし基本的な価値を踏まえて英知を結集して新しい社会的な仕組みを形作っていくほかはない.

この巻では,医療が持つ「人々を不幸にするマイナス面」が具体的事例として詳述されている.この巻を通読して改めて強く感じたことは,わが国には「人々を不幸にする構図」が存在しているということである.各執筆者はかけがえのない命の尊さを踏まえ,それぞれの個別具体的な事例に取り組みつつ,上記の「構図」を変えようと努力している.『医療事故と医療人権侵害』に記された各論文の根底に共通して流れている各執筆者の「拍動」のようなものも感じ取っていただけるならば,この巻の編集に携わった者としては幸いである.


第18巻編集委員 加藤 良夫

■ 目次

第1章 医療事故とその対応

第2章 薬害と生命倫理

第3章 医療過誤訴訟

第4章 薬害訴訟

第5章 公害病と人権侵害

第6章 臨床試験と人権侵害

第7章 患者運動としてのハンセン病訴訟

第8章 薬害エイズ訴訟

第9章 肝炎訴訟

第10章 予防接種禍訴訟

第11章 産科医療を巡る訴訟と産科医療補償制度

第12章 医療事故と刑事責任

第13章 医療事故調査委員会(リスク管理を含む)

■ 特記事項

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