特集 1:序説
若手放射線科医を主な対象とした「地力が伸ばせる ○○○」をテーマとする本特集,乳房領域の編集をご依頼いただいた際,乳腺・乳房という単一臓器をどのようにまとめるべきか大いに悩んだ。モダリティ・疾患ごとにまとめると,単一臓器だけに専門性が高い領域に踏み込まざるをえなくなるが,これまでに質の高い特集や教科書があり,本特集の企図にもそぐわないように感じた。そこで後輩の若手放射線科医何名かに聞いたところ,乳腺領域は「乳房MRIの読影が最も身近で最も困る」という意見が多かったため,思い切って乳房MRIに絞り「地力が伸ばせる 乳房MRI診断」として特集を組むこととした。
乳房MRIは乳腺診療における必須のモダリティで,一般に普及した検査といえる。放射線科医は診断業務の一環として乳房MRIのレポートを作成する機会があるが,わが国では乳腺を専門とする放射線科医は少なく,乳房MRI診断に対する苦手意識をよく耳にする。本特集では,まず,乳房MRI撮影の基礎を編者が,そして乳房dynamic MRI,造影病変ごとの評価方法を京都府立医科大学の喜馬真希先生ら,東京医科歯科大学の森 美央先生ら,名古屋大学の石垣聡子先生らに解説いただいた。多くの症例を提示いただき,造影病変の解釈の仕方がピットフォールも含めて大変理解しやすい内容となっている。神戸市立医療センター中央市民病院の金尾昌太郎先生には,造影MRI以外のシーケンスについて,基本のdynamic MRIに追加することで得られる臨床的に有用な情報を大変わかりやすくまとめていただいた。静岡県立静岡がんセンターの中島一彰先生らには,乳房MRIを読影するにあたり,理解しておきたいマンモグラフィと超音波の重要性についての執筆を依頼させていただいた。編者は乳房MRIの読影を入口として乳腺画像診断に携わるようになったが,症例を重ねるうちに乳房MRIの読影において,基本のマンモグラフィと超音波の情報がいかに重要であるかを痛感するようになった。若手の先生方も日々のMRI読影において,ぜひマンモグラフィ,超音波を参照するところから心がけていただきたい。最後に診療で最も頻度が高いMRI依頼内容である,乳癌広がり診断を亀田総合病院の町田洋一先生らに,術前治療効果判定を天理よろづ相談所病院の太田理恵先生らに解説いただいた。どちらも充実した内容で,明日からのレポート作成に即活かせる情報が満載である。
乳腺領域の本特集は,これまでの「地力が伸ばせるシリーズ」とは異なった切り口となったが,ご執筆いただいた先生方のご尽力により,放射線科医にとって最も身近といえる乳房MRIについて,すぐに診療に役立つ大変充実した特集になったと感じている。お忙しいなか本特集の執筆を引き受けてくださった先生方にあらためて感謝の意を伝えるとともに,本特集がみなさんの明日からの乳房MRI読影に役立つことを願っている。
後藤眞理子
特集2:序説
1997年に免疫チェックポイント分子のPD–1(programmed cell death–1)が初めて発見され,免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor;ICI)の開発を経てノーベル生理学・医学賞の受賞に至ったのは,まだ記憶に新しい2018年のことである。ICIの固形がんへの適応拡大と併用療法などの新たな治療法開発により,現在ではICIが進行がんに対するがん薬物療法の主流になりつつある。
ICIは,がんに直接作用する従来の化学療法や分子標的薬とは異なり,免疫を活性化することによって間接的に抗腫瘍効果を発揮するため,全身にさまざまな免疫関連有害事象(immune–related adverse events;irAE)が生じたり,非特異的な治療効果パターンを示すことがある。特にirAEに関しては早期診断・早期治療介入が重要で,画像診断医が最初にその可能性を発見しうるという点で臨床的意義がきわめて高い。また,irAEは(ICI投与時期にかかわらず)いつでも発生しうるため,irAEの可能性を常に念頭におきながらほかの病態(がん増悪や感染症など)を鑑別して読影する必要があり,最近のがん画像評価は難易度が上がったように思う。日常診療でがん患者の「全身」を画像をとおしてみている画像診断医としては,常にジェネラリズムが問われる,新しく重要なテーマといえるかもしれない。
今回の特集は,「そもそもICI治療やirAEって何?」といった素朴な疑問から,「何に気を付けて読影すればいいの?」「 ICI治療における画像診断の意義や役割は?」といった問いに対する道筋となるような内容を目指した。
最初の総論は,膠原病科医としてirAEマネジメントに関する素晴らしい書籍も出版されている峯村信嘉先生に,画像診断医が知っておくべきICIの基本概念やirAEの最重要項目についてわかりやすく解説していただいた。irAEの画像診断については,比較的臨床でよく遭遇するirAEを黒川 遼先生らに,そのほか知っておくべきirAEについてを益岡壮太先生に,それぞれ豊富な症例画像とともに詳細に解説していただいた。治療効果判定については,ICI時代に対応した新たな治療効果判定基準の構築に貢献されている西野水季先生にお願いし,最新の知見と世界の動向を含めて解説していただいた。コロナ禍の大変お忙しいなか,いずれもこの分野の第一人者としてご活躍されている先生方に快くお引き受けいただき,素晴らしい特集となったことに心から感謝申しあげる。
本特集が今後のがん診療に広く活用され,皆様のICIに関する知識整理に役立てていただければ幸いである。
久野博文