特集1:序説
今回の企画,「腸閉塞・イレウス」の特集は,編集会議において「やれたら絶対におもしろいが実現は困難が伴う」と判断されたものだったそうです。そんな企画がなぜか私のもとに舞い込んできました。
腸閉塞,イレウス……古から知られ,かつcommonな疾患,治療方針を誤ると命取りになり,そして画像診断が有用な病態です。一方で,どこまできちんと診断されているか,と振り返ってみるといかがでしょうか。
私はしばしば開腹手術を見学しに行きますが,診断名は間違っていなくとも,画像からは想像のつかなかった状況を目のあたりにし,自分の診断の甘さ,底の浅さを痛感することが少なからずあります。そこから推察するに,腸閉塞・イレウスの画像診断の一番の問題点は,目先の画像診断のみで結論付けてしまい,実際の腸管がどのようになっているのかを想起するという,画像診断本来の目的がおざなりになっている所にあるのではないか,と考えました。今回の特集の実現が,その解決のきっかけになればと思い,引き受けさせていただくことといたしました。
構成は,できるだけ実用的に診療に沿った内容となるように心がけております。
実際にどうなっているのかを想起するためにはまず実物を知ることが必要です。そこで,日本医科大学 消化器外科 山田岳史先生らに依頼し,開腹所見,治療について述べていただき,術中写真を豊富に盛り込んでいただきました。
画像診断の第一歩は腸閉塞かイレウスかの鑑別,次いでその原因検索です。小腸については公立甲賀病院 井本勝治先生ら,山形大学 豊口裕樹先生に,大腸については那覇市立病院 又吉隆先生に十分に解説をいただきました。
さらに一歩踏み込んだ診断,特殊な背景下にみられるものについて,内ヘルニアの診断を昭和大学藤が丘病院 竹山信之先生らに,術後にみられるものを大分市医師会立アルメイダ病院 松本俊郎先生らに,小児については国立成育医療研究センター 野坂俊介先生に解説をいただきました。
ご多忙ななか,素晴らしい内容をご執筆くださいました各先生方には,この場を借りて深くお礼申しあげます。
各先生方からいただいた原稿を目にして真っ先に連想したのが,きれいな写真が沢山掲載された「旅行のガイドブック」です。ガイドブックはすでに決めた旅行先の情報を調べるのにも役に立ちますが,時間のあるときに手に取って目を通すのも楽しいものです。そのように活用していただき,いつも,いつまでも手元に置いていただけることを願って,今回のテーマを「腸閉塞・イレウスの画像診断ガイドブック」とさせていただきました。
初学者の方にとっては,少々とっつきにくい部分もあるかもしれません。しかし,経験を積んで改めて読み直すと,その都度期待に応えてくれる1冊だと思います。腸管マニアの方にはきっと最初から最後まで楽しんでいただけると確信しております。
それでは,奥の深い腸閉塞,イレウスの世界をご堪能ください。
谷掛雅人
特集2:序説
本特集では,IVRに関連した裁判例および画像診断の読影結果が正しくなかった裁判例について取り上げ,基本的に,治療医と法律家の双方の視点で解説した。
個々の症例と同様,裁判にも,まったく同じものは1つとしてない。そのため,事実関係の相違点およびそれについての証拠関係によっては,価値判断が変わってくることもある。今なお,裁判所の判断枠組みは踏襲されており,少し古い判例もあるが,裁判所の判断の考え方を理解するのに重要と思われるものを選んでいる。読者の方々には,不幸にして裁判に巻き込まれた場合に,裁判官がどのように判断するのか,医療者との着眼点の違いを意識して,お読みいただけると幸いである。
通常,医療訴訟での主要な争点は,治療上の過失の有無および説明義務が果たされていたかである。今回の全事例に共通していることは,問題となった治療行為により,最終的に患者が死亡している。このように,結果が重大であるほうが,紛争化しやすいといえる。
治療上の過失は,大雑把にいうと,やってはいけないことをやってしまったという積極ミスと,やるべきことをやらなかったという消極ミスの2つに分けられる。今回は積極ミスが争点になっている。
1例目は,肝細胞癌のTAIおよびTAEにおいて,手技上の過失(積極ミス)が認められたが,2例目は,脳動脈瘤のコイル塞栓術において,手技上の過失は否定された。他方,3例目は,経皮的胆道内瘻化のトラブルが引き起こした胆汁性腹膜炎において,手技上の過失(積極ミス)は認められていないが,合併症が適切なタイミングで治療されなかったという,適時にやるべきことをやらなかった過失が認定された。
積極ミスは,結果が悪かったから,すべてに認められるわけではないことが,これらの対比からも理解いただけると思われる。結果が悪かった場合,多くのケースにおいて後智恵で結果を避ける方法やよりよい治療は思いつくであろう。しかし,回避する方法があったというだけで,法的過失が問われることにはならない。その別の方法が義務とまでいえるか,すなわち,治療法の見解が分かれるようなものではなく,ほとんどの医師が別の方法を選択したであろうというレベルまで達した場合には,通常,過失を問われてしまう。
しかし,そのレベルに達しない場合に過失を問われないということではなく,立証によって裁判官に与える心証によって判断に開きが出る。特に,医療者にとって,実際に行ったということと,裁判で証明できるかという点が一致するものではないことにも注意が必要である。詳細は,1例目の解説をご覧いただくとよい。
4例目は,2例目と同一事件の最高裁判決で,医療行為そのものではなく,未破裂動脈瘤の予防的治療における説明義務のみが争われ,違反を認めた事案である。経験豊富な病院内弁護士によって,実務上の経験を踏まえて解説されている。手技上の過失が否定されたとしても,結果が悪かったからこそ,説明義務違反の問題が最後まで残りやすいことも留意すべき点である。
最終稿では,「画像検査結果が適正に反映されなかったことに関連する複数の裁判例」を類型化し,紹介している。
越後純子