はじめに

古典的主要組織適合抗原複合体（MHC）クラス Ⅰ（class Ⅰa）抗原は，CD8＋ T細胞に抗原を提示し，獲得免疫応答で重要な役割を果たす．一方，ゲノム配置や構造上も相同性が高いが，多様性を欠くMHCクラス Ⅰb（class Ⅰb）抗原も一部対応するT細胞亜群に独特の抗原を提示してユニークな機能を示すことが明らかとなっている．

本特集では，まず豊かで広いclass Ⅰb抗原の世界を梶川瑞穂博士（昭和薬科大）・笠原正典博士（北海道大）に，構造や機能に進化の視点も加えてご解説いただく．

細菌に独特な蛋白翻訳開始アミノ末端であるformyl－Met含有ペプチドを認識するH－2M3抗原（ヒトは有しない）拘束性T細胞について吉開泰信博士（九州大）に，とくに感染防御の観点からご解説をお願いした．

最近，リガンドQdmとの複合体が結晶解析されたQa－1抗原にも対応するT細胞が存在する．Foxp3－で制御性T細胞機能を有するユニークなQa－1拘束性CD8＋ T細胞について岡村僚久博士（東京大）にご解説いただく．

CD1d拘束性αβ型T細胞であるNKT細胞，MR1拘束性αβ型T細胞であるMAIT細胞はすでに本誌でも幾度か取り上げられており，以前よりは馴染み度合いも上がったものと思われる．本特集では，ゲノム編集技術であらたに樹立されたtype Ⅰ NKT（invariantNKT：iNKT）細胞特異的ノックアウトマウスと肥満進展における役割の研究への応用を渡会浩志博士（東京大）に，iNKT細胞に比べまだその全容がわかっていないType Ⅱ NKT細胞については，あらたに明らかにされたペプチド/CD1dを認識するNKT細胞と血管炎の関連について西岡佑介博士・石津明洋博士（北海道大），従来検出が困難であったsulfatide/CD1d認識性の，とくに肺特異的なNKT細胞亜群について加藤真吾博士（横浜市大）・寺部正記博士（NIH），に新展開をご紹介いただく．

MAIT細胞に関しては，昨年（2017年）の“CD1－MR1 2017”でも演題が増え関心が高まっている．千葉麻子博士・三宅幸子博士（順天堂大）にはヒト自己免疫疾患やその動物モデルを中心に，最新の研究動向を，若尾　宏博士（獨協医大）には分化を含め，各種疾患における機能と応用への展望についてご解説をお願いした．

以上の8編の総説から，配列に多様性はなくとも，それぞれの抗原と対応するT細胞の多様でユニークな応答や機能，さまざまな生体システムとの相互作用が浮かび上がると思われる．本特集を契機にclassⅠb拘束性T細胞のフォロワーが増えることを祈りたい．

岩渕 和也
北里大学医学部免疫学