CLINICAL NEUROSCIENCE Vol.41 2023年07月号 カルシウムと神経系―善人か悪人か? 

  • ページ数 : 112頁
  • 書籍発行日 : 2023年7月
  • 電子版発売日 : 2023年6月26日
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内容

体にとって良い作用もあれば,悪い作用も有するカルシウム
この特集では,全身でのカルシウム代謝や神経系におけるカルシウムの役割を解説し,片頭痛や高血圧,パーキンソン病などカルシウムが病態生理や治療に関与する疾患も取り上げています.

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序文

カルシウムと神経系―善人か悪人か?


私が学生の頃,カルシウムに関しては,骨の成分としてのカルシウムとカルシウム代謝にかかわる多くのホルモンが話題とされることが多く,中枢神経系では,脳のカルシウムの石灰化とカルシウム代謝異常の時の脳症などが問題となるくらいだった.ただし,授業では当時東京大学薬理学教室の教授をされていた江橋節郎先生から,筋肉収縮においてカルシウムが重要な役割を演じる作用物質であることを教えていただいたと記憶している.江橋先生のお仕事がきっかけとなり,カルシウムの様々な生理学的作用が解明されるとともに,細胞変性の研究分野で細胞死をカルシウムが引き起こすことが注目を浴びた時期もあった.さらに,細胞内のセカンドメッセンジャーとしてのカルシウムの様々な役割も解明されてきて,可塑性などの誘導における意義も強調されるようになった.すべての物質が同様であるが,不足も過多も体にとっては悪影響を与えるが,通常量であっても蓄積される場所によっては有害となる場合もある.カルシウムはまさにそういう物質で,細胞内にフリーに存在すると細胞に対して障害を与える.いわば,体にとって良い作用もあれば(善人),悪い作用(悪人)も有することになる.

上述の実感を踏まえて,今回カルシウムと神経系に関する企画を試みた.

「A.全身カルシウム代謝」では,全身でのカルシウムの制御,血中濃度の維持などに関して,執筆をお願いした.脳のカルシウムは血液脳関門を介して全身のカルシウム代謝と関連して制御されているので,全身のカルシウム維持機構を理解することが第一歩と思い,この章を設定した.「B.神経系でのカルシウム」では,カルシウムの生体作用物質としての様々な側面を紹介いただけるようお願いした.どのように細胞内に入り,蓄積され,それをどのように細胞外に放出しているか,またその濃度をどのように維持しているかなどを,詳細に紹介いただけるようお願いした.トランスミッター放出や可塑性誘導での役割,カルシウムチャネルとカルシウム電流の機能なども取り上げた.そして,ミトコンドリアへの影響を含めた,悪人としての細胞死との関わりに関しても説明いただけるようお願いした.「C.カルシウムと臨床」では,直接的・間接的にカルシウムが病態生理や治療に関与する疾患などを取り上げた.

今回の特集号全体で,善人としてのカルシウムの役割,悪人としてカルシウムに注意する点などが確認できる内容となれば幸いである.


宇川義一

目次

特集 カルシウムと神経系―善人か悪人か?

A.全身カルシウム代謝

カルシウムの体内分布と代謝……井上玲子 他

血中カルシウム濃度維持の仕組み……竹内靖博

カルシウムと筋肉……森島信裕

B.神経系でのカルシウム

カルシウムチャネル……大久保洋平

Ca2+トランスポーター……三上義礼 他

神経細胞におけるカルシウム除去……柿澤 昌

細胞内カルシウムとミトコンドリア……和田山智哉 他

カルシウムとプルキンエ細胞……平野丈夫

カルシウムと神経伝達……山下愛美

Caスパイク,Naスパイク……三嶋竜弥

カルシウムと神経可塑性……柳下 祥

C.カルシウムと臨床

テタニー……松本英之

麻痺……久保田智哉 他

片頭痛……團野大介 他

疼痛……田邊 勉

パーキンソン病……常深泰司 他

ファール病(特発性基底核石灰化症)……保住 功

多系統蛋白質症(MSP)……山下 賢

高血圧……尾野 亘

TUSの作用機序……寺尾安生

脳波……飛松省三

連載

脳と神経の医学の歴史

フェルネル『普遍医学』が描く脳の機能……坂井建雄

細胞のメカニズムと神経疾患

[生殖に関連する新しい神経内分泌機構(4)]

妊娠,授乳と新しい生殖神経内分泌制御機構の連関……小澤一史 他

臨床中枢神経生理A to Z

[視覚誘発電位(1)]

視覚のメカニズム……飛松省三

臨床医のための神経病理 再入門(編集協力:亀井 聡)

CMV脳炎・感染症……亀井 聡

検査からみる神経疾患

超希少難病のNGS遺伝子検査……?橋祐二 他

ニューロサイエンスの最新情報

マウス線条体尾側部に新しく発見された抑制性ニューロン……福田孝一 他

Q & A―神経科学の素朴な疑問

「肝を冷やす」体験と温度受容体は関係がありますか?……富永真琴

素顔のニューロサイエンティスト

Francisco J. Quintana……門脇 淳

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書籍情報

  • ISBN:9784002104107
  • ページ数:112頁
  • 書籍発行日:2023年7月
  • 電子版発売日:2023年6月26日
  • 判:AB判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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